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WAMARE経済情報

2023年4月/MARE月例不動産市況レポート

四半期(2022年10~12月)実質GDP成長率(第二次速報季節調整系列値): 前期比0.0%

四半期実質GDP実額(第二次速報原系列値):139兆9182億円/前年比0.4%

MARE月例不動産市況レポート2023年4月号は、以下の章立てにて記して参ります。
1.岸田政権の「人への投資」政策の実態について、2. 不動産市況関連情報:実態経済基本情報について、3. 不動産市況関連情報:景況感について、4. 今後の不動産購入について、です。上記した中で、1では大中小規模企業の賃上げ実態について確認して参ります。
これが、読者様の不動産購入・売却の好機を知るための一助となれば幸いです。

【1.新旧日銀総裁の交代に係る総括と「成長と分配の好循環の実現」について】

先月号では、民間企業の景況感を、賃上げ予定と倒産数の増加に焦点を置いて説明した。本号では、今月8日の黒田前日銀総裁退任に伴い、黒田時代10年を総括する。また、政府の経済方針を確認するため、3月30日及び4月18日にそれぞれ開催された、内閣府経済財政諮問会議(以下、「内閣諮問会議」)の結果を読み解き、今後の不動産業界をはじめとする日本経済への影響について私見を記す。
黒田前日銀総裁10年間の任期中は、長期国債残高を年に50兆円増やすこと、上場投資信託残高の1兆円増、日銀負債マネタリーベースを年に60兆円~70兆円増やす大幅資産買い入れの実施を総括した、「異次元緩和」の導入が主要な政策であった。その結果、過度の円高が抑制され、株価の上昇をもたらし、企業の原資を大きく増やした一方、設備投資が大きく伸びずに労働分配率が下がり、賃金上昇率は芳しくなかった。また、国債金利が大きく下がったことから銀行収益を圧迫し、財政規律が緩むことで生産性が停滞し、実質賃金が押し下げられるといった負の側面が教訓として残された。先月号でも触れたように、今春における賃上げの影響は大きかったが、直近の実質賃金上昇率は依然、前年同月比2.9%減と外部要因を受けた物価上昇率を大きく下回る状況が続く。目下、2%を超える物価上昇率は、一見、黒田前総裁が掲げた年「2%上昇」の目標到達に見えるが、実際には資源高や急速な円安に伴う輸入製品高といった外部要因に牽引される形での上昇が主である。賃金の上昇が十分でないと、経済の好循環は生まれず、異次元緩和が続いたところで、物価目標の安定的な達成は極めて困難である。この「成長と分配の好循環の実現」が、直近2回開催された内閣諮問会議における主要なテーマとなった。
3月30日会議では主に、成長の阻害要因が企業の異常な貯蓄超過と低い労働分配率であること。持続的賃上げが必要で、そのためには労働生産性や労働分配率、交易条件の改善が重要であること。厳しい財政状況の中で、従来の「小さな政府」による経済政策ではなく、政府が一定の役割を果たす、MSSE(モダン・サプライサイド・エコノミクス)を実現するため、「賢い支出」や費用対効果小歳出の削減、社会保障関係費の抑制と、危機に備えた平時からの財政健全化が必要とした。目的は、市場経済とその失敗を是正する政府による、市場と政府間での政策配合を継続して行っていくこととした。そして、インフラ、子育て、教育、温暖化対策等へ投資しつつ、政府債務の過度な拡大は避けることを謳う。
4月18日の内閣諮問会議では、植田新日銀総裁が「安定的な金融運営をしっかりやっていきたい」と述べた。また同会議において、賃金と物価の好循環は、2022年春から既に始まっており、この好循環を、2025年をめどに定着させていく戦略が必要とした。さらに、新しい資本主義の中心的な目標である「持続可能な所得面での成長」を実現させるため、マクロ指標やKPIを利用して政策目標を策定し、政策実行を確認する必要があると説いた。これには、対内直接投資が非常に重要で、投資だけでなく、それに付随する海外の技術と優秀な人材が日本へ入り、内外双方向で技術やアイデアの交流が行われるような環境を整えることが要だとした。ただこれには、税制等も含めた制度の見直しが伴うべきであると締めくくっている。
以下では、不動産市況を取り巻く経済の実態を確認していく。

【2.不動産市況関連情報:実態経済基本情報】

以下では、実態経済基本情報について確認していく。

表1によると、新設住宅着工数は前月比で822戸増加したが、前年比では0.3%減の64,426件となり、減少を示した。内訳は持家が18,368戸、前年同月比で4.6%減と15ヶ月連続の減少を示し、貸家は24,692戸と前年同月比4.7%増と、24か月連続の増加を示した。また、分譲住宅は21,062戸と前年同月比で1.8%減と、3ヶ月ぶりの減少となった。持ち家は、民間資金が 16,694戸、前年同月比4.7%減と14カ月連続で減少、公的資金は1,674戸、前年同月比3.5%減の16カ月連続の減少で、持ち家全体での減少となった。貸し家は、民間資金で23,088戸、3.9%増と8カ月連続増加し、公的資金では1,604戸、17.7%増と2カ月ぶりの増加を示した。分譲では、マンションが9,705戸、前年同月比0.2%増の3カ月連続の増加、一戸建ては11,202戸、前年同月比3.3%減と、4カ月連続で減少した。また三幸エステート(株)の3月31日公開データによれば、東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の大規模賃貸オフィスビル空室率は4.59%と前月比1.5%増で、2ヶ月連続で上昇した。先月同様、従来からの同社研究予測であった緩やかな低下の継続とはならず、2ヶ月続けて減少している。これは、世界的に景気後退への懸念が広がることで、特に日本国内の外資系企業全般でオフィス移転計画が停滞する動きが影響しているという。
表2、一都三県に限った新築分譲マンション市場動向は、供給戸数で20.4%減少した。これで4ヶ月連続の二桁減少となり、減少傾向は続いている。

残戸数については、先月5,610戸であったが、今回は5,452戸と158戸減少した。供給戸数は前年同月比20.4%減少の466戸と5ヶ月連続で減少した。供給戸数は、埼玉県、東京都下を除く全ての地域で減少し、契約率は首都圏が±0%、23区では1.1%減、東京都下では10.4%増、神奈川県では12%減、埼玉県は1.7%増、千葉県では6.9%の増加を示した。

(出典:東京、神奈川、埼玉、千葉各行政府人口統計資料を基に筆者作成 / 2023年4月22日時点)

平均販売価格及び平米単価は全体で減少、20階以上の超高層物件契約率は76.9%と、前年同月比2.7%減少した。一都三県全体における初月契約率については、73.3%を示し、2ヶ月ぶりに70%台持ち直しとなった。平均戸当り価格は6,778万円で前年同月比では8.6%減少し3ヶ月ぶり減となり、平米単価は101.5万円で4カ月ぶりに下落した。残戸数は2ヶ月続けて減少しており、不動産市場の安定性を示す一つの指標と見てとることができる。
図1、人口の増減については、東京都が3ヶ月連続となる人口減少3,831人減となり、その他3県においても減少した。神奈川県では、5,972人減少し、埼玉県では4,502人減少、千葉県は6,912人減少した。2023年2月は2ヶ月連続一都三県すべてで転出が超過しており、東京の転出超過は、3カ月連続となった。先月号で確認した通り、首都圏から地方へ本社または本社機能を移転する企業が過去20年で最多となっていること、テレワークが普及していること、リスク分散として首都圏外へ拠点を設けるケースが増えていることが理由である。政府による地方移住推奨助成金精度の拡充が予測されることと合わさり、今後もこうした減少傾向は持続すると予測される。

【3.不動産市況関連情報:景況感について】

本節では、不動産市況に係る景況感を確認していく。まずはマクロデータから確認する。

表3、全国消費者物価指数によると総合値は先月より1.0%減少し3.3%となり、生鮮食品を除く総合は1.1%減の3.1%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合では0.3%増加し3.5%となった。先月号で確認したように、政府は「第7回物価・賃金・生活総合対策本部」会議を開催し、「電力料金抑制に向けた取組等の検討」を謳っており、その一定の効果がでた結果とされる。しかし、前年同月比では18ヶ月連続の上昇となり、生鮮食品及びエネルギーを除く総合ではむしろ、0.3%の上昇となっていることから、インフレ傾向の継続と確認できる。
以下では図2、内閣府景気動向指数を見ていく。先行指数は前月比で1.1ポイント(以下「P」)上昇し、4ヶ月ぶりの上昇となった。3ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を11、12、1月の平均及び12、1、2月の平均と比較して出した高低値)は0.04P上昇し、6ヶ月ぶりの上昇となり、7ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を、7、8、9、10、11、12、1月の平均及び8、9、10、11、12、1、2月の平均と比較して出した高低値)で0.25P下降し、9ヶ月連続の下降となった。一致指数は前月比2.8P上昇、6ヶ月ぶりの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.07P

下降し5ヶ月連続の下降となった。7ヶ月後方移動平均は0.06P下降し2ヶ月連続の下降となった。遅行指数は前月比で1.4P下降し7ヶ月ぶりの下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.27P下降し15ヶ月ぶりの下降となった。7ヶ月後方移動平均は 0.22P上昇し12ヶ月連続上昇した。
先行指数は4ヶ月ぶりに上昇し、一致、遅行指数はそれぞれ減少を示した。以下では、前月と比べて低下傾向を示した内訳情報を記す。先行指数では、新規求人数が0.08%減少、新設住宅着工床面積は0.12%減少、マネーストックも0.07%減少した。一方、最終需要財在庫率指数は0.06%上昇し、鉱工業要生産財在庫率指数が0.74%上昇、実質機械受注(製造業)は0.33%上昇、消費者態度指数は0.04%上昇、日経商品指数は0.02%の上昇、東証株価指数は0.17%の上昇、中小企業売上げ見通しは0.28%の上昇を示した。一致指数で減少を示したのは、有効求人倍率の0.11%減少のみであった。生産指数(鉱工業)は0.53%上昇、鉱工業用生産財出荷指数は0.54%上昇、耐久消費財出荷指数は0.54%上昇、労働投入量指数は0.16%上昇、投資材出荷指数(除輸送機械)は0.24%上昇、商業販売額(小売業)は0.23%上昇、商業販売額(卸売業)は0.08%上昇、営業利益は横ばいの0.00%、輸出数量指数は0.24%の上昇を示した。遅行指数は、家計消費支出が0.05%の減少、法人税収入が0.01%減少、完全失業率が0.33%減少、きまって支給する給与は0.07%の減少、消費者物価指数は0.49%の減少を示した。一方、第3次産業活動指数は0.15%の上昇、常用雇用指数は0.02%の上昇、最終需要財在庫指数は0.44%の上昇を示した。

総論として内閣府は、景況感を「足踏みしている」と表現した。この表現は3カ月連続であり、景気後退局面に入った可能性を示唆する表現であるため、引き続き今後の景気局面には注意が必要である。
図3は本年2月までの訪日客数の推移である。日本政府観光局2023年3月15日付発表資料によると、毎年2月は桜シーズンを控えた閑散期にあたり、また前月の旧正月の反動により、特に東アジアからの訪日者が減少したこと等を受け、前月よりも減少を示した。ただ、その他の国、地域は堅調な回復を示しており、2019年同月比では56.6%の水準で、前月以上の回復ぶりを示した。政府は、地方誘客や消費額の拡大を促進するため、引き続きサステナブル・ツーリズム情報の積極発信、会議、研修旅行、国際会議、イベントの開催地誘致活動の積極化等を通した取り組みを強化していくとした。以上のことから、今後も堅調な訪日客数の増加が見込める。

【4.今後の不動産購入について】

為替動向をみると、本年4月28日時点で134.05円(前年同日129.09円)と、従来よりも円高傾向を示しており、前年同日比では約3.8%の円安となっている。日本銀行が発表した今後の見通しでは、通常のペースまで物価が上昇するには時間がかかるとしている。また、内閣府が景気動向指数で記したように、景気の足踏み状態が減速局面を迎えるにつれ、物価上昇は当面落ち着くものとの予測も成り立つ。これを受けた、金融緩和の継続が市場における一般的な見方である。また、たとえ日本の長期金利が市場で広く予測されている通り1%まで緩やかに上昇したとしても、不動産との利回り差は十分確保されることから、不動産市場への影響は限定的であるといえる。されに、金利と不動産のリスクプレミアムがともに上昇している一部海外市場と比較しても、依然、日本の不動産市場は魅力的な投資市場である。こうした事柄に加え、引き続き直近30年で最円安機を迎えている現在こそ、海外資産を用いた不動産購入にはなお適した時期であると言える。