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WAMARE経済情報

2022年10月/MARE月例不動産市況レポート

四半期(2022年4~6月)実質GDP成長率(第二次速報値): 前期比 0.9%

四半期実質GDP実額(第二次速報値):132兆6375億円/前年比1.6% (出典:内閣府)

本年7月に開始しました不動産関連市況情報のレポート配信は、今回が第四号となります。新型コロナウイルス対策に係る入国規制も大幅に緩和され、今後は多くの訪日者が増加していくことが予測されます。このレポートでは2022年10月11日現在の最新情報に基づき、主に本年8月市況情報を報告します。これが不動産購入・売却の好機を知るための一助となれば幸いです。

【1.今月策定予定、岸田内閣の旗印となる「総合経済政策」発表に際した考察】

日本経済の行方は、政権与党の諸政策の影響を大きく受けることが多い。例えば、安倍前首相は市場への金の流れの円滑化と民間投資の喚起を重要政策に据え、結果として株価、経済成長率、企業業績、雇用等の経済指標は改善を示した。先月号でも確認したように、岸田政権にとっての重要政策は「新しい資本主義」を実現するための「人への投資」の拡充である。達成に向けた筋道を描くため、今月中の策定を目指した「総合経済政策」の骨子について話し合う目的で10月5日に首相官邸にて開催された「第 12回経済財政諮問会議」の内容を見ていきたい。
不動産市況を下支えする重要な要素に、人々の賃金事情がある。近年、非日本居住者による不動産購入や賃貸は上昇しているが、現在も主な購入者、賃借人は日本在住者である。そのため、賃金が上昇しないことには賃貸設定価格や売買価格の上昇、空室率の減少を下支えすることは困難である。以前より本レポートでも確認している通り、政府は円安環境を活かした対日直接投資誘致の促進を最重要政策の一つに据えているが、そのためには魅力的な投資環境の整備が不可欠である。これらを踏まえ、筆者は賃金上昇の動向に注目している。
懸念点は、厚生労働省が7日に発表した8月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、物価の影響を除いた現金給与総額(名目賃金)は1.7%増えたが、物価上昇の影響を含めた実質賃金は前年同月比1.7%減と5カ月連続で減少しており、物価の伸びに追い付いていないことである。
この懸念を踏まえ上記会議において政府は、構造的な賃上げを実現するための好循環を検討した。そして、内部労働市場では、人材の育成・活性化環境整備を通じた賃上げを試み、外部労働市場では、賃金上昇を伴う円滑な労働移動活発化を目指すとした。また、堅調な上昇を続ける最低賃金の引き上げを継続し、GX(グリーン・トランスフォーメーション)化推進で安価なエネルギー利用による外的要因のインフレを抑えつつ賃金上昇の手段に位置付ける等を検討した。

【2.不動産市況関連情報:実態経済基本情報】

続いて実態経済基本情報を見ていく。次項表1によると、新設住宅着工数は4ヶ月ぶりの増加を見せ、着工数77,712件、前年比4.6%となり、昨年10月以来の着工数水準で、3ヶ月続いた減少が増加に転じた。内訳としては、持家が22,291戸と、前年同月比で11.2%減、9か月連続の減少を示した。貸家は31,295戸と前年同月比 8.9%増、18か月連続の増加を示した。また、分譲住宅は23,172戸と前年同月比で16.2%増、先月の減少から再びの増加を示した。新型コロナ感染者がピークを超えて減少へ転じていったことを受け、商談の機会が増えてきたことで、滞っていたあらゆる事業が再開されてきていることも反映しているように思える。

一方、一都三県に限った新築マンション市場動向は、表2で確認できるように供給数40.1%と大幅な減少を示した。東京都下と神奈川県に至っては70%以上の減少を示し、埼玉県及び千葉県においてはそれぞれ103.1%、51.4%の増加を示した。平均価格、平米単価は共に首都圏全体で18%以上減少しており、全月同様、契約率が増加しているのは唯一埼玉県となっている。

図1を見ると人口増加増加については東京都以外、むしろ3県共に微減を示している。減少人数は東京都の増加人数を超えているため、首都圏以外への移転現象が起きたことが予測される。契約率についても、一都三県はどこも好基調を示す70%以上水準を下回っている。20階以上の物件に限った契約率は68.4%と、70%を超えていた7月時と比べ、やはり70%水準を下回る結果となった。これは、価格上昇が続く物件市場を反映した数値となっていることが窺える。加えて、供給数大幅減の背景には、前年同月に戸数が多い分譲マンションが数多く売られたことへの反動、さらには不動産経済研究所によると「例年、8月はモデルルームが閉鎖され減少傾向にあるが、今年は色濃く出た」と分析し、一方で、「消費者の購入意欲は依然として高く、マンション価格は高水準のまま推移する」とみているという。

(出典:東京、神奈川、埼玉、千葉各行政府人口統計資料を基に筆者作成 / 2022年10月11日時点)

紙幅の都合上、本稿へは図表を明示していないが、国土交通省9月20日発表「令和4年都道府県地価調査結果」によると、全国の全用途平均地価は0.3%と3年ぶりに上昇し(首都圏では1.5%)、さらに全国住宅地地価は0.1%の上昇を示し(首都圏では1.2%)、これは実に31年ぶりの上昇であった。2022年7月1日時点の計測値を示したもので、地価が全国的に上昇していることが分かる。不動産市況実態の行方を左右する上でも、来月発表の各数値に注目したい。

【3.不動産市況関連情報:景況感】

日本の大手不動産会社7社 が共同運営する不動産関連情報ポータルサイト「MAJOR7」では10月6日に「住んでみたい街アンケート」を発表した。8月3~17日の調査期間に、同サイトインターネット会員で7社を通した新築マンションの購入を検討する首都圏(1都3県)在住ユーザーを対象に実施したウェブアンケートで3,080人が回答した。これにMAJOR7内の一社「東急不動産(株)」がHP上掲載物件情報を基にした相場情報を組み合わせたものが表1である。

掲載量や掲載物件の種類にもよるため参考値ではあるものの、筆者が従前より感じていた相場感にかなり近しいものが表示されているように思える。これら数値から読み取れることは以下の3点である。1点目に、首都圏一都三県中、神奈川県内である横浜を除いて、トップ10入りを果たしている9駅が東京都内に存在すること。2点目に、マンション売買相場の高低は必ずしもマンション賃貸相場の高低を表さないこと。3点目に、横浜と吉祥寺を除く、8駅が東京都の城南地域(皇居の南に位置する6区)に集中しているということである。

(出典:「(株)プライスハブルジャパン」HPより引用)

城南地域が人気なのには以下3点の理由があるように思える。1点目に、都営地下鉄や私鉄、JR山手線等、交通の便に優れているということ。2点目に、渋谷や自由が丘、二子玉川に六本木等、お洒落な買い物等の目的地としての機能が高いこと、そして3点目に街路樹や公園等、緑の環境に恵まれた地域が多いことが、各種調査から見える主な理由である。
なお、今から10年前に実施されたランキング結果でも、表1中、品川と代々木上原以外全てがランクインしていたため、人気な街は比較的固定化されていることが分かる。つまり、これらの街を起点として、その駅、あるいは周辺エリアにおいて物件を所有することの魅力を裏打ちしていると言える。その中でも特に、土地がそこまで上昇していない割には発展性があり利回りが高くおすすめであるのが大田区である。図2は、(株)プライスはブルジャパンが可視化した東京都23区内の表面利回りである。足立、葛飾、江戸川区の3区ほどではないものの、ここでは、城南地域の中でも特に大田区の利回りが高いことが確認できる。

(出典:総務省統計局)

ここからは毎月恒例のマクロデータ情報を確認する。表4、全国消費者物価指数によると総合値は先月より0.3%増加し、生鮮食品を除く総合も0.3%増え、生鮮食品及びエネルギーを除く総合でも同様に0.3%増加した。総合値は資源高と円安の影響を主に反映し、5ヶ月続けて2%を超えている。今後もこの2点の影響が価格転嫁されていくため、増加が続くものと思われる。
図3、内閣府景気動向指数によると、先行指数が前月と比較して2.0 ポイント(以下「P」)と、4ヶ月ぶりの上昇となった。3ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を5、6、7月の平均及び6、7、8月の平均と比較して出した高低値)では0.06P上昇し、3ヶ月ぶりの上昇となり、7ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を、1、2、3、4、5、6、7月の平均及び2、3、4、5、6、7、8月の平均と比較して出した高低値)では 0.04 P下降し、3ヶ月連続の下降となっている。

一致指数は前月比1.6P上昇、3ヶ月続けて上がった。3ヶ月後方移動平均は1.93P上昇、3ヶ月連続上昇である。7ヶ月後方移動平均は0.77P上昇し、10ヶ月連続の上昇となった。
遅行指数は前月比較して3.1P上昇、2ヶ月ぶりに上がった。3ヶ月後方移動平均は1.57P上昇、9ヶ月連続上昇した。7ヶ月後方移動平均は 0.87P上昇し、7ヶ月連続の上昇となった。

(出典:日本政府観光局)

図4は本年8月までの訪日客数の推移である。前月号までで確認してきた通り、政府の入国時政策緩和措置の継続が背景にあった。前月と比べて約15%以上増えているが、今後訪日者数は更に加速していくものと思われる。9月26日付内閣官房長官発表の、以下5点の新しい措置が本年10月11日より開始するためである。第一に、全ての新規入国者の受入責任者管理を求めず、観光客に課していたパッケージツアーに限定する措置を解除すること。第二に、査証免除措置適用を再開すること。第三に、国際保健機関(WHO)緊急使用リスト掲載のワクチン3回目接種証明書又は海外出発前72時間以内に受けた検査の陰性証明書のいずれかの提出を条件に、新型コロナウイルスへの感染者を除く、全ての帰国者・入国者に入国時検査を行わないこと。第四に、1日当たり5万人をめどとしていた入国者総数の上限を設けないこと。第五に、日本国内で現在国際線を受け入れていない空港・海港は、今後準備が整い次第、順次、国際線受入れを再開すること。以上確認した通り、訪日の機運は熟していると言える。

【4.今後の不動産購入について】

本年10月11日時点で145.73円(前年同日112.5円)と前年同日比で約29%進んだ円安は、不動産購入を後押しする数値は「不動産の売れ行きが好調」との5日発表「TDB 景気動向調査」情報にも表れている。本稿冒頭で触れた第12回経済財政諮問会議では、対日国内投資が各国と比較して低位に留まっていることを指摘し、「円安という絶好の機会」を逃すことなく、強力な政府支援を実施する。こうした投資環境整備の取組により付加価値の高い産業が連続的に生まれ、賃金が大胆に上昇する構造が生まれる。このように、政府主導で創造する経済成長の好循環が継続することを前提とすれば、今こそ、良質な不動産を所有する好機と言えるはずだ。