江戸時代末期、東京で誕生した「江戸切子」。
ガラスの表面に「切子加工」によって施された繊細な図柄(文様)の美しさに魅了される人も多いでしょう。
今回は、そんな江戸切子の代表的な文様と、それぞれに込められた願いに焦点を当ててご紹介します。
さまざまな角度から「幸せ」を願って考案された伝統文様
・霰(あられ)
江戸時代の薩摩島津藩の定め柄で、江戸小紋の柄としてもおなじみ。
地面に降り注ぐ霰をデザインしたもので、江戸切子を代表する文様の一つです。
・六角籠目(ろっかくかごめ)、八角籠目(はっかくかごめ)
竹籠の網目模様をモチーフにした文様を「籠目(かごめ)」と呼び、六芒星が連続して見えることから、日本では古来より「魔除け」として用いられてきました。
六角籠目(ろっかくかごめ)
・矢来(やらい)
「矢来」とは、住宅などの周囲に竹を交差して作られた囲いのこと。外敵を防ぐ目的になぞらえて、「災いから身を守る」「魔除け」などの意味があります。
矢来
・麻の葉
麻は成長が早く、まっすぐにグングンと伸びることから、子どもの健やかな成長を願う文様として親しまれてきました。赤ちゃんの産着や、着物の下に身に着ける長襦袢、帯などにも用いられています。
麻の葉
・笹の葉
古くから竹と並ぶ吉祥(縁起が良い)文様として、礼装用の着物や帯にも用いられてきた笹の葉。力強く成長することから、「長寿」や健康を願うなどの意味も込められております。
・菊繋ぎ
繊細なカットの交差によって表現される柄が、菊の花に似ていることからその名が付いた「菊繋ぎ」は、江戸切子を代表する文様の一つ。
日本の国花でもある菊には「不老長寿」の意味があるほか、きく=喜久と書き換えることもできるため、喜びが久しく(いつまでも)続く、などの意味があります。
菊つなぎ
・亀甲(きっこう)
亀甲とは文字通り亀の甲羅を模した正六角形の文様で、平安時代頃から用いられる吉祥文様です。
日本には「鶴は千年、亀は万年」という言葉があるように、亀をモチーフにした文様は「不老長寿」など縁起がいいとして伝承されてきました。
また、固い甲羅が身を守ってくれるとして「魔除け」などの意味もあります。
・市松(いちまつ)
江戸時代中期活躍した歌舞伎俳優、佐野川市松(さのがわいちまつ)が愛用していたことから人気が広まりました。同じ柄が途切れることなく続くため、「子孫繁栄」の意味があるとされています。
ちなみに、同じく江戸時代から受け継がれる「市松人形」は佐野川市松に似せて作られたものです。
・魚子(ななこ)
細かいカットの連なりが、まるで魚の卵のように見えることからその名が付けられました。
かつて魚を「な」と呼んでいたことから“ななこ”の読み方が今も受け継がれています。
「子孫繫栄」の意味があるといわれています。
・七宝(しっぽう)
七宝とは仏教の経典に登場する7つの宝のことで、金、銀、瑠璃(るり)、玻璃(はり)、シャコガイ、珊瑚(さんご)、瑪瑙(めのう)をさすといわれています。
「七宝紋」は同じ大きさの円を均等に重ねた文様で、上下左右につなげたものを「七宝繋ぎ」といいます。円がつらなる形状をから「円満」「調和」などの意味がある他、人とのご縁(円)には7つの宝と同等の価値があるという意味も込められています。
・蜘蛛の巣
文字通り、蜘蛛の巣を思わせるデザインで、「幸福を絡めとる」という意味が込められています。
蜘蛛の巣は「万葉集」などにも登場するほか、現代においても着物や帯などのデザインにも用いられています。
江戸切子の色や値段の秘密
江戸切子の色といえば、多くの人が思い浮かべるのが瑠璃色と銅赤色ではないでしょうか。
もともとは透明でしたが、よりカットの美しさが際立つよう、透明なガラスの上に色付きガラスを被せる「色被せ(いろきせ)ガラス」が開発されたことで、色付きのものが流通するようになりました。
その後も研究・開発は続けられ、ピンクやライトブルー、グリーン、ブラウンといった淡い色の切子も登場しています。
江戸切子の価格は主にデザイン(文様)の難易度によって決まります。
細かいデザイン=表面をカットする回数が増えるほど難しくなるだけでなく、色が濃くなるほど削るのが難しくなるため、一般的に「黒」の江戸切子は価格が高くなる傾向があります。
黒の切子は、黒い部分と削られた部分のコントラストが美しく、他の色にはない魅力があります。ただ、細かい文様を表現することが困難なため、より精巧なデザインのものを求める場合は、他の色を選ぶといいでしょう。
ぜひお気に入りの江戸切子を見つけてみてください。