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書道に必要な「文房四宝」って?書道がもっと楽しくなる道具や書体のお話

弥生時代に中国より伝来し、現代では日本の伝統文化や芸術としても親しまれている書道。今回は、書道に必要な「文房四宝」や、代表的な書体についてご紹介します。

中国の文人には欠かせない存在だった「文房四宝」

基本的には、書道に必要なものは毛筆、墨、紙の3つですが、墨を水で磨(す)るための硯(すずり)も欠かせません。中国では筆・墨・硯・紙の4つを「文房四宝(ぶんぼうしほう)」と呼び、文房と呼ばれた書斎には必ず備えていたといいます。

墨を水で磨(す)るための硯(すずり)

筆には主に、山羊や羊、馬、タヌキ、イタチなどの動物の毛が使われています。
それぞれ毛質が異なり、書体に合わせて、またはどのような表現をしたいかによって使い分けるといいます。

筆には動物の毛が使われている

墨は煤(すす)や、動物の骨や皮などを煮てつくられる膠(にかわ)、香料などを合わせて固形状にしたもの。もともとは膠のにおいを抑えるために香料を加えたようですが、墨を磨る際の香りに癒されるという声もよく聞かれます。

硯の原料は陶磁器や石、金属など様々ですが、書道の発祥である中国では、古くから石製の硯が愛用されてきました。文房四宝の中でも特に価値が高いとされ、骨董品の硯は高値で取引されることもしばしばです。

書道に用いる紙は大きく「和紙」と「唐紙」の2種類。和紙は楮(こうぞ)や三椏(みつまた)などの植物を主原料とする紙で、薄いながらも丈夫で破れにくい、表面がなめらかなため筆が滑りやすく、時間が経っても色が変わりにくいなどの特徴があります。一方、唐紙は竹や藁(わら)、桑などを主原料とする紙で、和紙と比べると繊維が短いため墨が染み込みやすく、“にじみ”を生かした表現に適しています。

書道で使われる書体は大きく6種類

書道で用いる書体は、主に「篆書(てんしょ)」、「隷書(れいしょ)」、「草書(そうしょ)」、「行書(ぎょうしょ)」、「楷書(かいしょ)」、そして、平安時代に日本で生まれた「かな文字」の6つ。時代と共に読みやすさ、書きやすさを追求し、少しずつ進化をしてきました。それぞれの書体が生まれた順にご紹介します。

【篆書】

「篆書」は最も古い書体で、紀元前4~3世紀頃に発祥したと考えられています。古代中国では、地域によってさまざまな書体が用いられていましたが、秦の始皇帝が国を統一した際に、統一文字である「小篆(しょうてん)」を制定しました。これが現代も篆書として受け継がれています。日本では、印鑑(実印)やパスポートの表紙に印字された「日本国旅券」、紙幣の印影などに活用されています。

篆書の特徴
・線の太さが一定である
・左右対称
・字形は縦長
・横画は水平、縦画は垂直
・画(線)と画の間隔が等しい
・曲線的

【篆書】

篆書で書かれた「寅」の字

【隷書】

画数が多く、書きにくい篆書を書きやすく簡略化したものが「隷書」です。漢代(紀元前202~後220)に正式書体として用いられていました。「波磔(はたく)」と呼ばれる、はらいの形が三角形になっているのが特徴です。
日本円紙幣に印刷されている「日本銀行券」「壱万円」などの文字をはじめ、建物の表札、新聞や本の題字などにも隷書が用いられています。

隷書の特徴
・字形は扁平
・篆書と比較すると角ばっている
・左右対称
・画と画の感覚が等しい
・左右のはらいが三角になる波磔がある

隷書で書かれた「寅」の字

【草書】

隷書を早書きするために、さらに簡略された「草書」は前漢の時代に生まれたと考えられています。画や点を極限まで省略した文字をつなげて書くことで、流れるような動きが生まれ、書き手によってさまざまな個性が見られます。

草書の特徴
・固定された字形がない
・流動的
・早く書くことを目的とするため、一見して読めない字が多い

草書で書かれた「寿」の字

【行書】

草書と同様に隷書から派生して生まれた「行書」は、後漢時代に生まれました。画や点をある程度省略し、流れるように書かれた行書は早く書ける上、草書と比べると読みやすい点も特徴です。

行書の特徴
・くずし字でありながら読みやすい
・点や画を連続することがある
・点や画を省略することがある
・筆順が異なることがある
・流動的、曲線的

行書で書かれた「寿」の字

【楷書】

隷書を書きやすく、読みやすく進化した「楷書」は、現代の日本で最も多く目にする標準的な書体。諸説ありますが、唐の時代に確立したと考えられています。点や画は省略せず、一字ずつ丁寧に書き上げる楷書は、書道の基本でもあります。

楷書の特徴
・点や画は省略、連続させず明確に書く
・正しい筆順で書く
・横画が右上がりになる
・バランスが良く、読みやすい
・直線的

楷書で書かれた「感謝」の字

【かな文字】

「かな文字」は、平安時代に確立したと考えられている日本特有の書体です。
もともと固有の文字をもたなかった日本人は、中国から伝来した漢字を用いていましたが、より豊かな表現で書き記すために、漢字の音(おん)を活用した「万葉仮名(まんようがな)」が生まれます。さらに漢字を簡略化し、読みやすく、書きやすくするために誕生したのがひらがな、カタカナです。
平安中期、女性は漢字を学ぶことが禁じられていたため、ひらがなを活用して和歌を詠んだり、日記を書いたりしていました。このことから漢字を「男文字」や「男仮名」、ひらがなを「女文字」や「女仮名」と呼んでいました。

かな文字の特徴
・ひらがなは曲線的、カタカナは直線的
・カタカナは外来語、擬音表記に使われることが多い
・かな書道の場合は「連綿」と呼ばれる2つ以上の文字を続けて書く

ひらがな

カタカナ

まとめ

日本人は海外から流入した文化を独自に進化させるのが得意だといわれますが、中国で生まれた「漢字」を元に、ひらがな、カタカナを生み出したことからも合点がいきます。
美術館や博物館で書道作品を鑑賞する際は、どんな書体で書かれているかにも注目してみるとより楽しめるかもしれません。