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WAMARE経済情報

2023年5月/MARE月例不動産市況レポート

四半期(2023年1~3月)実質GDP成長率(第二次速報季節調整系列値): 前期比0.4%

四半期実質GDP実額(第二次速報原系列値):138兆5506億円/前年比1.3%(出典:内閣府)

MARE月例不動産市況レポート2023年5月号は、以下の章立てにて記して参ります。
1. 4月賃上げ率3.66%の達成と6月実質賃金指数-3.0%のギャップについて、2. 不動産市況関連情報:実態経済基本情報について、3. 不動産市況関連情報:景況感について、4. 今後の不動産購入について、です。1では大中小規模企業の賃上げ実態について確認して参ります。
これが、読者様の不動産購入・売却の好機を知るための一助となれば幸いです。

【1.4月賃上げ率3.66%の達成と6月実質賃金指数-3.0%のギャップについて】

先月号では、民間企業の景況感を、賃上げ予定と倒産数の増加に焦点を置いて説明した。本号では、新年度はじめに当たる4月以降の賃上げ状況の実態を、日本労働組合総連合会迂回の公表データから確認する。また、政府の経済財政政策方針を確認するため、5月15日及び5月26日にそれぞれ開催された、内閣府経済財政諮問会議(以下、「内閣諮問会議」)の結果を読み解き、今後の不動産業界をはじめとする日本経済への影響について私見を記す。
まず、賃上げ状況について。一般的に賃金改善要求交渉の妥結は年度始めである4月までを目指すものであるが、交渉の長期化等により、4月以降にずれ込むことが多い。そのため、筆者が参照した6月5日公表のデータでは、月例賃金改善を要求した5,362組合中妥結済みであった 4,586組合、85.5%が有効回答データとして統計結果に反映されている。このうち賃金改善が明らかな組合は2,616組合、57.0%で、組合数・割合とも確定値をもって比較可能な2013年春闘以降で最も高い水準になっている。平均賃金方式の有効回答4,475組合の加重平均で10,807円(3.66%)、昨年同時期比4,758円増となっており、うち300人未満の中小組合3,144組合では8,328円(3.36%)、同3,471円増となった。賃上げ分が明確に分かる2,919組合の「賃上げ分」は6,029円(2.14%)、うち中小の1,808組合は5,050円(1.98%)となり、高い水準を保っている。図1にて確認できるように、6月5日時点における賃上げ水準は、1989年からの毎年統計中、30年前の1993年時点の3.90%に次ぐ6番めの高水準となっている。

(出典:日本労働組合総連合会総合政策推進局。[2023年6月5日時点の賃上げ状況の推移])

一方、厚生労働省の毎月勤労統計調査4月分の速報値を見ると、実質賃金指数は依然、-3.0%となっており、後述する全国消費者物価指数の伸び率が賃金上昇率を大幅に上回り、日本経済浮上のためには賃上げが不可欠とする政府、産業界の意向と併せて考えると、今後も賃上げ政策を幅広く打ち出す傾向が継続されると予測できる。なお、執筆時点におけるそれぞれの最新情報を参照することで、より実態に迫ることを目的としたため、上述した賃上げデータが6月、実質賃金指数データが4月分と、2ヶ月のブランクがあることに留意頂きたい。
上記の賃上げ状況を踏まえ、政府の賃上げをはじめとした今後の経済政策の概況を、5月に2度開かれた内閣諮問会議から見ていきたい。まず、2000年以降の日本経済の特徴として低成長、低金利、低インフレといった特徴に加え、日本の特徴である名目賃金の低迷という現象があるとした。そして、これまで用いられることが少なかったが、給付金や補助金以上にGDPを押し上げる効果のある減税策を積極的に打ち出し、民間投資を喚起していくべきだと主張する。とはいえ、現在までに国内投資はバブル期(1986年〜1991年頃)を上回る水準をつける見通しであるといい、多くの業界において賃上げも進んでいる。さらに、2020年初頭頃より始まったコロナ渦自粛モードから「普通の暮らし」が戻ってきた昨今、外資系企業による対日投資意欲はますます旺盛になってきているという。そうした投資を積極的に誘致していく政府の方針は堅固であり、よほど大きな経済・政治的なインパクトがない限り、変わることはないというのが筆者の見解である。日本国外から日本へ投資をするに当たり、参入障壁が低く、比較的高利回りで主要国中では低価格帯ともいえる日本不動産に対する投資が、歴史的な円安情勢も相まって拡大を続けるであろうと、MAREを通した日本国外クライアントとの接触等から筆者は実感覚を有している。
このように、賃上げが順調に続くことによる内需型国内投資環境の安定化、また、円安及び投資環境整備推進等による海外投資家の対日投資拡大継続傾向から、若干の高低はあるものの、日本不動産価格の安定的な伸長は、主要都市・地域を中心に継続していくと筆者は見ている。
以下では、不動産市況を取り巻く経済の実態を確認していく。

【2.不動産市況関連情報:実態経済基本情報】

以下では、実態経済基本情報について確認していく。

表1によると、新設住宅着工数は前月比で9,267戸増加したが、前年比では3.2%減の73,693件となり、減少を示した。内訳は持家が17,484戸、前年同月比で13.6%減と16ヶ月連続の減少を示し、貸家は32,585戸と前年同月比0.9%増と、25か月連続の増加を示した。また、分譲住宅は23,053戸と前年同月比で0.4%減と、2ヶ月連続の減少となった。持ち家は、民間資金が 15,950戸、前年同月比14.0%減と15カ月連続で減少、公的資金は1,534戸、前年同月比10.2%減の17カ月連続の減少で、持ち家全体での減少となった。貸し家は、民間資金で29,069戸、0.7%減と9カ月ぶりの減少を示し、公的資金では3,516戸、16.2%増と2カ月連続の増加を示した。分譲では、マンションが11,378戸、前年同月比7.2%増の4カ月連続の増加、一戸建ては11,583戸、前年同月比6.9%減と、5カ月連続で減少した。また三幸エステート(株)の4月末時点の公開データによれば、東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の大規模賃貸オフィスビル空室率は4.48%と前月比1.1%減で、3ヶ月ぶりに減少した。先月同様、従来からの同社研究予測であった緩やかな低下の継続は、先月、先々月と続けて予測に反した上昇を示したが、4月は予測通りの緩やかな減少を示した。しかし、依然として景気後退懸念から外資系企業を中心にオフィス移転計画が停滞する動きがあること、移転計画の具体化にコロナ渦前より時間を要する傾向が影響し、空室率が増減する可能性がある。なお、3月から4月にかけては日本の年度終わり/始めの時期と重なることも、空室率の低下に影響したと考えられるため、来月以降の情報に注目したい。

表2、一都三県に限った新築分譲マンション市場動向は、5ヶ月連続の減少となる供給戸数で2.1%減を記録、二桁ではなく一桁の減少となったのは5ヶ月ぶりだが、依然減少傾向続く。
残戸数については、先月5,452戸であったが、今回は5,189戸と263戸減少した。供給戸数は前年同月比2.1%減少の2,439戸であったが6ヶ月ぶりの増加であった。供給戸数は、東京23区、千葉県を除く全ての地域で減少し、契約率は首都圏が4.3%増、23区では8.8%増、東京都下では16.6%増、神奈川県では3.4%減、埼玉県は13.5%減、千葉県では2.8%の増加を示した。

(出典:東京、神奈川、埼玉、千葉各行政府人口統計資料を基に筆者作成 / 2023年5月22日時点)

平均販売価格及び平米単価は埼玉県を除く全てで増加し、20階以上の超高層物件契約率は90.4%と、前年同月比でほぼ同水準となった。一都三県全体における初月契約率については、79.5%を示し、2ヶ月連続で70%台を示した。平均戸当り価格は1億4,360万円で前年同月比では120.3%の大幅増となり、これは2ヶ月ぶりの増加であった。平米単価は102.3万円で2カ月ぶりの増加となった。残戸数は3ヶ月続けて減少しており、不動産市場の安定性を示す一つの指標と見てとることができる。
図2、人口の増減については、東京都が4ヶ月連続となる人口減少2,990人減となり、神奈川県でも4,975人減少した。一方、埼玉県では603人増加し、千葉県では2,347人の増加を示し、それぞれ3ヶ月ぶりの増加を示した。東京での転出超過は、4カ月連続となった。先月までに確認してきた通り、テレワークの普及、リスク分散県の外移転や、政府による地方移住推奨助成金精度の拡充が予測されることと合わさり、今後もこうした減少傾向は持続すると予測される。

【3.不動産市況関連情報:景況感について】

本節では、不動産市況に係る景況感を確認していく。まずはマクロデータから確認する。
表3、全国消費者物価指数によると総合値は先月より0.1%減少し3.2%となり、生鮮食品を除く総合は前月同様の3.1%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合では0.3%増加し3.8%となった。先月号までに確認したように、政府は「第7回物価・賃金・生活総合対策本部」会議を機に物価安定化政策を積極的に実行しているが、前年同月比で19ヶ月連続の上昇となり、生鮮食品及びエネルギーを除く総合では前月に続き0.3%の上昇となっている。

以下では図3、内閣府景気動向指数を見ていく。先行指数は前月比で0ポイント(以下「P」)と変化はなかった。3ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を12、1、2月の平均及び1、2、3月の平均と比較して出した高低値)は0.7P下降し、2ヶ月ぶりの下降となり、7ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を、8、9、10、11、12、1、2月の平均及び9、10、11、12、1、2、3月の平均と比較して出した高低値)で0.59P下降し、11ヶ月連続の下降となった。

一致指数は前月比6.6P上昇、2ヶ月連続の上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.13P下降と、6ヶ月連続の下降となり、7ヶ月後方移動平均は0.59P下降し11ヶ月連続下降した。
遅行指数は前月比で0.5P下降し2ヶ月連続の下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.06P下降し17ヶ月ぶりの下降となった。7ヶ月後方移動平均は 0.12P上昇し13ヶ月連続上昇した。
先行指数は横ばい、一致、遅行指数はそれぞれ大きな増加を示した。以下では、前月と比べて低下傾向を示した内訳情報を記す。先行指数では、最終需要財在庫率指数が0.15%減少、鉱工業要生産財在庫率指数が0.26%の減少、新規求人数が0.60%減少、実質機械受注(製造業)が0.08%減少、新設住宅着工床面積は0.19%減少、東証株価指数は横ばいの0.00%、中小企業売上見通しは0.39%の上昇となった。一致指数で減少を示したのは、投資材出荷指数(除輸送機械)の0.02%、商業販売額(小売業)は0.04%の減少、商業販売額(卸売業)は0.12%減少、有効求人倍率は0.24%減少、輸出数量指数は0.07%の減少となった。一方、生産指数(鉱工業)は0.15%上昇、鉱工業用生産財出荷指数は横ばいの0.00%、耐久消費財出荷指数は0.38%上昇、労働投入量指数は0.06%上昇、営業利益は0.01%上昇となった。遅行指数は、家計消費支出が0.35%の減少、法人税収入が横ばいの0.00%、完全失業率が0.38%減少、消費者物価指数は0.04%の減少を示した。一方、第3次産業活動指数は0.44%の上昇、常用雇用指数は0.01%の上昇、きまって支給する給与は0.25%の上昇、最終需要財在庫指数は0.15%の上昇を示した。

総論として内閣府は、景況感を「足踏みしている」と表現した。この表現は4カ月連続であり、景気後退局面に入った可能性を示唆する表現であるため、引き続き今後の景気局面には注意が必要である。
図4は本年3月までの訪日客数の推移である。日本政府観光局2023年4月19日付発表資料によると、桜シーズンの訪日需要高や、クルーズ船運行の再開等により、コロナ渦前2019年同月比65.8%の水準となり、昨年10月の個人旅行再開以降で最高値を記録した。訪日者国籍別でみると、米国をはじめとした欧米豪中東地域からの来訪が大幅に増えている。ただ、依然としてコロナ渦前のダイヤに復旧はしておらず、増便・復便がなされているため、多くの市場では回復途上にある。さらに政府は3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」にのっとり、地方誘客や消費拡大促進、国内関係者との連携を基礎にした海外旅行会社等のセールス強化や情報発信、高付加価値旅行、アドベンチャートラベル推進等を強化していくとした。以上のことから、今後も堅調な訪日客数の増加が見込める。

【4.今後の不動産購入について】

為替動向をみると、本年5月31日時点で139.80円(前年同日128.2円)と、従来よりも円高傾向を示しており、前年同日比では約8.3%の円安となっている。4月28日日本銀行発表の今後の見通しでは、日本経済の上振れ、下振れリスクは比較的上下にバランスが取れたまま推移していくとしており、緩やかな経済回復状況が今年度半ば頃まで続くと予測している。ただし、同期間終盤にかけて成長ペースが鈍化していく可能性が高く、また、海外経済・物価動向の潜在的リスクが日本の金融・為替市場へ与える影響には十分な注視が必要としている。そして、前年比上昇率実績値が安定的に2%を超えるまで「物価安定の目標」を念頭に、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」措置を継続していくという。そして必要があれば躊躇なく追加的金融緩和措置を講じるとしている。こうした日銀方針を踏まえると、円安環境が継続していくと予測され、前号に引き続き直近30年で最円安機を迎えている現在こそ、海外資産を用いた不動産購入にはなお適した時期であると言える。