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盆栽とは?日本風情を感じられる「鉢上の樹木」の魅力と歴史を紹介

盆栽とは、山野で育つ樹木を鉢に移し、手を加えて楽しむ芸術のひとつ。古くから日本人に親しまれている伝統文化です。

本コラムでは盆栽の特徴や歴史から魅力を深掘りし、楽しみ方を紹介します。また、国内はもちろん、海外でも盆栽人気が高まっている理由についても解説します。

盆栽とは

日本の伝統文化のひとつである、盆栽。まずは盆栽の特徴や伝統的な技法、そして鉢植えとの違いについて解説します。

盆栽の特徴と魅力

盆栽は自然の樹を鉢に植え、観賞用としての美的感性を求めて長い年月をかけて手入れを行い、ひとつの芸術作品として仕上げます。

盆栽の原点は中国の「盆景」と言われていますが、現在は盆景と異なるものとして扱われています(「盆栽の成り立ち」にて後述)。
盆景はお盆の中に土や砂、植物、石などを調和させて複合的に自然の風景を再現するものである一方、盆栽は樹木単体で自然美の想起に重きを置いていることが特徴です。

盆栽の最大の魅力は、長い時間をかけて「自然の縮尺」を造り上げるところ。一枝一枝の出方や、鉢の中に敷き詰められた土に生えた苔なども、盆栽の世界観を引き立てます。

また、一般的には劣化を感じさせる枯れた幹や枝なども、盆栽においては侘び寂びを感じさせる「味」としてむしろ価値を高めます。 造り手の自然観だけでなく、時に生きる芸術を表現し、楽しめるのが盆栽なのです。

現代でも、盆栽に魅了される日本人は多いと言われています。身近に自然を感じられ、ジオラマ感覚で気軽に楽しめたりする部分ももちろん魅力ですが、自分だけの世界(個性)を表現する方法のひとつとしても、盆栽は評価されています。

そのほかにも、植物の手入れに没頭することで心を癒したり、花や実を成らせることで達成感を得たりなど、さまざまな楽しみ方ができるのも盆栽の魅力と言えるでしょう。

盆栽の伝統的な技法と美学

盆栽の美しい樹形を維持するためには、「整姿(せいし)」という作業が必要になります。

主な整姿作業は次の4つです。

● 芽摘み
● 葉刈り
● 剪定
● 針金かけ

芽摘みは、伸びた枝を短く切り、伸び方を均等にする工程です。枝先に小さな葉がたくさん茂った美しい盆栽に仕上げます。
葉刈りは、葉の形を整えたり、古い葉を取り除いて新しい葉を増やしたりします。
剪定は不必要な枝を切り、盆栽の美しい樹形を維持する工程です。剪定後の樹形をイメージしながら慎重に行う必要があります。
針金かけは、美しい樹形を造るための工程です。樹木を傷めずに針金を巻くには、高度な技術が必要とされます。

以上の工程のうち、芽摘みや葉刈り、剪定は不要な部分を取り除くことを目的とするため「盆栽の引き算」とも言われます。日本人の美意識のひとつとも言える「引き算」が多い盆栽では、無駄をそぎ落とし、小さく凝縮しながら自分の世界を表現していくのです。

盆栽と鉢植えの違い

盆栽と似たもののひとつに、鉢植えがあります。どちらも植物が主体ですが、鉢植えは植物を育てて鑑賞するものである一方、盆栽は植物の姿を借りて、その背景にある自然や風景を表現したものです。
鉢植えは「自然美」のみを表すのに対し、手間をかけてひとつの世界を作り出す盆栽は「自然美」と「人工美」を調和させた造り手の世界を表しています。

盆栽の主な種類とそれぞれの特徴

次に、主な盆材の種類と特徴について紹介します。

盆栽の主な種類は、一年中変わらない姿を見せる「松柏」と、季節ごとに変化を見せる「雑木」の2つです。雑木は、さらに「葉物」「花物」「実物」に細かく分けられます。

松柏(しょうはく)

盆栽の代表とされる「松柏(しょうはく)」。その名の通り、「松」と「真柏」のことです。どちらも一年中緑色の葉を茂らせる針葉樹で、生命力の強さから愛されてきました。

葉物

育てやすく、盆栽ビギナーにもおすすめとされるのが「葉物」。代表的な植物は秋になると色づき、四季の移ろいも感じられるモミジやカエデなどです。

花物

華やかさや可憐さ、花の落ちゆく無常さなどが魅力の「花物」。桜や梅、百日紅、藤などが用いられますが、他の盆栽と比べて手がかかるとも言われています。

実物

「実物」は、姫リンゴやカリンなどの果実を実らせる盆栽です。松柏や葉物ほど樹形を気にしなくて良く、剪定も比較的少ないのが特徴ですが、一方で肥料の調節が難しい傾向にあります。かわいらしい実を付けるため、女性からの人気も高い盆栽です。

盆栽の歴史

日本で古くから愛されてきた盆栽。盆栽の歴史と、盆栽が日本文化に与えた影響から、魅力をさらに深掘りします。

盆栽の成り立ち

盆栽の起源は、約1,300年前の中国で生まれた「盆景」「盆山」と言われています。日本には平安時代に伝わり、鎌倉時代の絵巻物にはすでに盆栽のようなものが描かれています。室町時代には自然の山や川などの風景を思わせる石を用いた盆景が、室町将軍や僧侶の間で流行しました。

安土桃山時代には、盆栽が登場する能*「鉢木(はちのき)」が誕生します。

*能:面と美しい装束を使い、上演される日本の代表的な古典芸能で、現代にも引き継がれる演劇のひとつ。

江戸時代初期には大名屋敷の庭園でしか見られなかった盆栽ですが、後期になると庶民の間にも広まりました。浮世絵に長屋の庭で花物を楽しむ様子などが描かれており、この頃に「盆栽」という言葉も誕生したと考えられています。

明治時代には政財界を中心に、盆栽愛好家が増えました。1873年のウィーン万博や1878年のパリ万博では、屋外の日本庭園に盆栽が飾られ、大正時代には盆栽を世界に広めようという機運が高まります。

1923年の関東大震災後には、東京の団子坂周辺に住んでいた植木職人たちが、盆栽の育成に適した土壌を持つ埼玉の大宮へ移り住みました。1925年には、植木職人たちの自治共同体として「大宮盆栽村」が生まれ、昭和15年には「盆栽町」と町名を変更します。

また、1934年には盆栽研究家である小林憲雄氏の働きかけにより、東京府美術館(現在の東京都美術館)で初の国風盆栽展が開催されました。この展覧会は、現在も毎年開催されています。

盆栽が日本文化に与えた影響

盆栽が日本に入ってきてから間もなく、現代の盆栽に通ずるものが絵巻物や屏風に描かれていたことから、日本人の美的感覚と融合して独自の発展を遂げたと考えられています。

江戸時代には、庶民の娯楽である能や狂言にも盆栽を題材にした作品が続々と登場します。
有名なものは能「鉢木」、狂言*「盆山」です。「鉢木 」は徳川家康も好んだとされる名曲で、劇的な内容が人々の心を打ったのでしょう。「盆山 」は狂言の基礎的な演出が多く用いられており、現代でも学校公演などで上演される演目のひとつ。笑いを通して人間を描く、狂言ならではの魅力あふれる作品です。

*狂言:舞台装置を使わず、言葉や動作によって表現する対話中心のせりふ劇。

明治時代になると、茶会(煎茶会)でも座敷に盆栽が飾られるようになり、小説や俳句・短歌にも盆栽が登場します。皇族や財政界の要人、文豪たちにも盆栽愛好家が多かったことから、盆栽はさまざまな芸術、しいては日本人の感性にも少なからず影響を与えたといえるでしょう。

江戸時代後期以降には、盆栽は気軽に楽しめる趣味として、庶民の間でも広まりました。

この流れをくみ、現代では格式の高い芸術としての盆栽と、個人で楽しめる盆栽の両方が存在しています。老若男女を問わず楽しめる、日本古来の芸術として確立したのです。

日本の自然美が世界から注目され、海外でも盆栽が身近に

海外での認知度や人気が一気に高まったきっかけは、1970年に大阪で開催された日本万国博覧会だと言われています。ひとつの鉢の中に自然を凝縮して風景を想起させる盆栽は、海外からの来場者の注目を集めました。

高価で格式高い芸術品というイメージを持たれがちな盆栽ですが、日本では庶民の間でも親しまれてきたもの。ハードルの高さを感じることなく、誰でもすぐに始められます。

鉢という狭い世界の中に手を加え、自然美を表現していくおもしろさは、万国共通。
盆栽を通じて、日本庭園や絵画、小説や俳句・短歌などを新たな視点から楽しみたいと考える海外の人も多いようです。

「BONSAI」と日本語の発音をそのままローマ字で表記するほど、海外でも日本の文化として成り立っています。

盆栽の聖地とされる大宮盆栽村には、大宮盆栽美術館と6つの盆栽園があり、日本人のみならず、世界から盆栽愛好家が訪れています。
館内の盆栽庭園には常に約60点の盆栽が展示されており、四季折々の姿を楽しめます。盆栽の「表(正面)」「裏(背面)」の違いを見られる場所が多いのも特徴です。
盆栽の一鉢一鉢に、造り手のこだわりを感じられることでしょう。ビギナー向けのワークショップを定期的に開催している園もあり、プロから盆栽造りのいろはを教わることもできます。

いたるところに盆栽が置かれている大宮盆栽村。高価な盆栽もたくさん飾られていますが、一方でレストランや休憩所などにも盆栽が置かれています。海外様式を多く取り入れた現代日本の生活の中にも、違和感なく溶け込んでいる様子を目にすれば、より盆栽を身近に感じられるでしょう。

松や桜などの日本の風情を感じさせる植物も、盆栽ならば不思議なことに洋風な部屋にもマッチします。単なる自然美だけでなく、樹木に手を加えて人工的な美を付加しているからではないでしょうか。
樹木本来の自然美で癒しの空間を造り出しながら部屋の雰囲気を壊さない盆栽は、インテリアとしても有能です。

まとめ

盆栽は、樹木に手を加え、自然美と人工美を調和させる日本ならではの芸術です。鉢の中に造り手の世界観を凝縮して表現する盆栽は、国境を越えてさまざまな国で愛されています。

ただ造るのを楽しむもよし、飾って楽しむのもよし。盆栽の楽しみ方に、正解はありません。自分なりの楽しみ方ができる盆栽で、日本を感じてみませんか。