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WAMARE経済情報

2023年8-9月/MARE月例不動産市況レポート

四半期(2023年4~6月)実質GDP成長率(第二次速報季節調整系列値):1.2%

四半期実質GDP実額(第二次速報原系列値):136兆6178億円/前年比1.6% (出典:内閣府)

今回のMARE月例不動産市況レポートは、8月のお盆期間は経済的に新たな動きがあまり確認できなかったことから、8月と9月を合わせた合併号2023年8/9月号とし、以下の章立てにて記して参ります。
1. 日本政府の「新たな経済対策」策定に向けた動きについて
2. 不動産市況関連情報:実態経済基本情報について
3. 不動産市況関連情報:景況感について
4. 今後の不動産購入について

【1. 日本政府の「新たな経済対策」策定に向けた動きについて】

昨今の物価高騰やウクライナ情勢などの影響を受けた経済への対応として、9月25日、岸田首相は「新たな経済対策」の策定について、その目的を2点示した。これは、第1に、物価高に苦しむ国民に対し、成長成果の適切還元を行うことであるという。コロナ禍を経て経済状況は、3.58%の賃上げ、名目100兆円設備投資、50兆円の需給ギャップ解消等が進み、税収も増加しており改善しつつあるが、広く国民が物価高に苦しんでいる状況を踏まえた税収増等の国民への適切還元を実現する経済対策であるとする。
第2に、長年続いたコストカット型日本経済から30年ぶりの歴史的転換を強力に政策的に後押しをしていくことであるという。ここでは、活発な設備投資や賃上げ、人への投資による経済の好循環を実現し、経済の熱量を感じられる「適温経済」のステージに移ることを目的とする。
これら2つの目的を実現させるため、以下5つの柱を意識していくとする。
今回の経済対策では、以下の5つの柱を重視する。1.足元の急激な物価高から国民生活を守る対策、2.地方、中堅・中小企業を含めた持続的な賃上げによる所得向上と地方の成長、3.成長力の強化・高度化に資する国内投資の促進、4.人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革の起動と推進、そして5.国土強靱化、防災・減災による国民の安心・安全の確保である。こうしたことを踏まえた「新たな経済政策」の2023年10月末頃の策定を目指すとする。
9月21日、岸田首相は「ニューヨーク経済クラブ」にて講演し、主に以下について演説した。
日本国外からの参入促進のため、日本国内各所へ資産運用特区を創設し、それら特区では英語のみで行政対応が完結するよう設定、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進めるとした。そして、世界投資家ニーズに沿った改革さらに推し進めるため、日米基軸資産運用フォーラムの立ち上げ計画を提案している。また、過去一年間の日本のマクロ経済状況の改善についても触れ、名目GDP成長率が年率11.4%と主要先進国で最高の伸びとなったこと、国内投資が、100兆円を超え、日本史上最高を更新する見通しであること、賃金が3.5%超引上げで労使交渉が妥結し、最低賃金も10月より4.5%引き上げること、株価が33年振りの水準まで上昇していること等を示し、日本の経済指標が30年前以来のパフォーマンスを示していることを指摘した。
また、日本銀行において9月21日及び22日に開催された「金融政策決定会合」での主な意見を以下のように指摘している。まず、金融緩和は継続していくとし、その主目的賃上げの勢いを支え続けることとし、賃金上昇基調が定着することで価格転嫁が起き、サービス価格を中心とした物価上昇が定着することが狙いであるとした。その上で、輸入物価上昇の価格転嫁が主因である消費者物価上昇率2%以上の恒常化ではなく、賃金の上昇を伴う形による2%物価安定目標の持続・安定的な実現を目指すという。
ここで厚生労働省の毎月勤労統計調査に目を移したい。8月分の速報値を見ると、実質賃金指数は-2.5%と、先月の確定値2.7%よりも0.2%下がっているものの、依然物価上昇率から引き離されている実態を確認できる。前号で記したように、約30年ぶりの上昇幅となっている昨今の賃上げ状況は、インフレ状況に抗しきれておらず、今後も継続的に政府の賃上げ政策が続き、金融緩和策は継続され、円安状況もしばらく続くことが予測される。
このように、賃金上昇率以上の物価上昇率が続く限り、日本の景気にとっては下振れ因子であり、また、中国を中心とする世界経済の鈍化傾向も懸念される中、10月2日発表の日銀短観によると、2023年度大企業輸出見通しは1.6%増と、前年度の16.1%増を大きく下回っていることが分かった。日本の輸出の約2割は中国向けであるため、多大な打撃を受けて、景気動向全体に影響していくことも懸念される。
以上のことから、政府の方針としては、物価の安定的な2%基調の継続を目指しているものの、マイナスが続く実質賃金や世界経済の動向に対する懸念により、長期的には日本経済成長への懸念点も拭えない状況であると筆者はみている。一方、昨今の円安状況、対日投資国内環境整備の推進や世界の金融市場の不安定化等、対日投資に向かうお金の流動性が高まっていることから、日本不動産価格の緩やかな伸長は、主要都市・地域を中心に継続していくと考えている。
以下では、不動産市況を取り巻く経済の実態を確認していく。

【2.不動産市況関連情報:実態経済基本情報】

ここでは、実態経済基本情報について確認していく。

表1によると、新設住宅着工数は7月、前月比で2,864戸減少し、前年比では6.7%減の68,151件となり、減少した。内訳は持家が20,689戸、前年同月比で7.8%減と20ヶ月連続の減少を示し、貸家は30,170戸の前年同月比1.6%増と、先月の減少から再びの増加を示した。また、分譲住宅は16,979戸と前年同月比で17.6%減と、2ヵ月連続の減少となった。持ち家は、民間資金が 18,970戸、前年同月比6.8%減と19カ月連続で減少、公的資金は1,719戸、前年同月比17.4%減の21カ月連続の減少で、持ち家全体での減少となった。貸し家は、民間資金で27,552戸、2.9%増と先月の増加から再びの減少を示し、公的資金では2,618戸、10.3%減と2カ月連続の減少を示した。分譲では、マンションが5,797戸、前年同月比28.0%減と3か月ぶりの減少を示し、一戸建ては11,066戸、前年同月比11.2%減と、9カ月連続で減少した。また三幸エステート(株)の7月末時点の公開データによれば、東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の大規模賃貸オフィスビル空室率は6月に4.75%、7月に5,15%と2ヵ月連続で増加した。5%台に乗るのは2014年3月以来であり、これは新築ビルが空室を抱えて竣工したことに加え、統合移転により生じた大口の募集床が現在空室となっていることが原因であるとした。今後も供給過剰による空室率の上昇が懸念され、立地条件と賃料のバランスが良好なビルにテナント引き合いが集まる傾向があり、募集賃料の低下も引き続き予測される。
表2、一都三県に限った新築分譲マンション市場動向は、9ヶ月ぶりの増加となる供給戸数14.2%増となり、昨年10月以来の増加を示した。

残戸数については、6月に4,951戸であったところ、今回は4,850戸と101戸減少した。供給戸数は前年同月比14.2%増の2,268戸と増加し、神奈川県および埼玉県を除く全ての地域で増加、契約率は首都圏が14.1%増、23区では21.2%増、東京都下では14.0%減、神奈川県では12.4%減、埼玉県は14.9%減、千葉県では42.1%の増加を示した。

(出典:東京、神奈川、埼玉、千葉各行政府人口統計資料を基に筆者作成 / 2023年9月30日時点)

平均販売価格及び平米単価は首都圏、東京23区、東京都下で増加し、20階以上の超高層物件契約率は88.2%と、前年同月75.5%よりも高い数値となった。一都三県全体における初月契約率については、74.8%を示し、2ヶ月ぶりに70%台を示した。平均戸当り価格は9,940万円、平米単価は144.9万円で、前年同月比ではそれぞれ50%超えの大幅増加となり、いずれも5ヵ月連続の増加となった。
図1、人口の増減については、東京都が4ヶ月連続の人口増加を示す前月比3,687人増となり、神奈川県では前月比1,946人減少した。埼玉県ではわずかながら前月比675人増加し、千葉県では791人の増加を示し、神奈川県以外で増加した。前号では、例年7月頃から減り始める傾向にあると記したが、コロナ渦情勢が終わり、コロナ前の働き方が日常化しつつある中、神奈川県を除き今後も人口数は伸びることが予測される。(株)東急総合研究所「第1回 最新の人口動向」によると、コロナ渦の2020年から2022年にかけ減少していた外国人住民が、2023年に入って反転して急増しており、1都3県の人口全体において外国人住民の存在感が増しているとされる。実際、総人口に占める外国人(非日本人)住民の比率は2013年の1.54%から2023年時点で2.39%と、1.5倍となっているという。外国人人口住民数は今後も伸び続けているとされることからも、一都三県では人口増加基調が継続していくことが予測される。

【3.不動産市況関連情報:景況感について】

本節では、不動産市況に係る景況感を確認していく。まずはマクロデータから確認する。
表3、7月分の全国消費者物価指数をみると、総合値は前月より0.1%増の3.6%となり、生鮮食品を除く総合も前月と同じ3.5%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合では0.3%増の4.6%となったことが分かる。総合値は10カ月、生鮮食品を除く総合は11カ月、生鮮食品及びエネルギーを除く総合では8カ月続けて3%を上回る水準で推移している。世界規模のインフレ傾向が続き、特にエネルギー価格の急激な上昇に起因する高水準は、政府の物価対策による抑制が未だ困難な局面であることを示している。

以下では図2、内閣府景気動向指数を速報値で見ていく。
先行指数は前月比で0.6ポイント(以下「P」)減となった。3ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を4、5、6月の平均及び5、6、7月の平均と比較して出した高低値)は0.07P減少となり、7ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を、12、1、2、3、4、5、6月の平均及び1、2、3、4、5、6、7月の平均と比較して出した高低値)は0.10P減少した。

一致指数は前月比1.4P減少した。3ヶ月後方移動平均は0.07P下降となり、7ヶ月後方移動
平均は0.11P上昇した。
遅行指数は前月比で0.8P減少し、3ヶ月後方移動平均は0.10P上昇、7ヶ月後方移動平均は 0.17P上昇した。
全ての指数で減少を示した。以下ではそれぞれの指数への各系列の寄与度を記す。
先行指数では、最終需要財在庫率指数が0.06%減少、鉱工業要生産財在庫率指数が0.07%減少、新規求人数が0.09%上昇、実質機械受注(製造業)が0.20%減少、新設住宅着工床面積は0.39%減少、消費者態度指数は0.33%上昇、日系商品指数は0.07%上昇、マネーストックは0.08%減少、東証株価指数は0.02%上昇、中小企業売上見通しは0.28%の減少となった。
一致指数では、生産指数(鉱工業)は0.28%減少、鉱工業用生産財出荷指数は0.18%減少、耐久消費財出荷指数は0.57%減少、労働投入量指数は0.46%減少、投資材出荷指数(除輸送機械)は0.48%減少、商業販売額(小売業)は0.16%上昇、商業販売額(卸売業)は0.10%上昇、営業利益(全産業)は0.01%上昇、有効求人倍率は0.11%減少、輸出数量指数は0.39%の上昇を示した。
遅行指数は、第3次産業活動指数が0.15%減少、常用雇用指数は0.12%上昇、家計消費支出が0.19%の減少、法人税収入が0.22%上昇、完全失業率が0.33%減少、きまって支給する給与(製造業。名目)は0.17%減少、消費者物価指数は0.28%減少、最終需要財在庫指数は0.04%の上昇を示した。
総論として内閣府は、景況感を「改善を示している」と表現した。この表現は3カ月連続の表現であり、景気後退局面を脱した可能性を示唆しているが、上記で示した通り、各系列の景況感への寄与度ではマイナス表記が目立っており、今後の景気局面には注意が必要である。

図3は本年7月までの訪日客数の推移である。日本政府観光局2023年8月16日付発表資料によると、⽇本⾏き海外旅⾏制限措置が続く中国を除く総数では2019年同コロナ渦前の月比 103.4%と、当時の実績を上回る結果となった。これまで同様韓国等東アジア諸国からの訪⽇外客数が増加したこと、欧米豪中東地域では特に米国やカナダにおいて2019 年同月比を超える実績となったことを受けた上昇となった。国際線定期便の運航便数はコロナ渦前の6割まで回復しており、政府は今後も訪日客数増加のための諸刺激策推進等を強化していくことから、今後も堅調な訪日客数の増加が見込める。

【4.今後の不動産購入について】

為替動向をみると、本年9月29日時点で149.50円(前年同日144.35円)と、前年同日比では約3.5%の円安となっている。8月3日付発表、帝国データバンク社による2023年7月の景気動向調査によれば、不動産業界は前月比1.5P減と、2カ月連続の減退を示し、現在はハウスメーカー土地購入案件が前年よりも増加しているものの、地価の上昇や人件費等建築資金上昇や、金融機関の融資姿勢の厳格化が悪影響を及ぼし始めているとする。先行きについては、外国人による投資向け不動産取得が旺盛だが、供給物件数が不足しており、価格高騰要因となっているという。直近では不動産市況、ホテル宿泊市況ともに堅調であるが、今後の日銀金利政策を注視しているとする。ただ、修繕費や光熱費等の高騰が負担となっていることから、テナントのマンション入居予定が悪化しているとした指摘もあった。一方、不足していた半導体は全体としての供給が間に合いつつあり、また、2024年春頃には各種原材料高騰が収束する見込みであること等が、肯定的な景況感判断材料となっている。
このように、不動産業界の好景気基調は鈍化しているものの、建築資材等の高騰は収束局面を迎えており、日銀が金融政策の緩和を継続していることは、不動産市況を見るうえで好材料となっている。また、為替動向も一層の円安傾向を示していることから、引き続き海外資産を用いた不動産購入には適した時期であると言える。