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「茶の湯」とともに広がった茶室の美学

「茶室」とは茶道において、亭主(主人)が客を招き、茶を出してもてなすための小さな空間のこと。
15世紀後半に村田珠光(むらた・じゅこう)が「侘茶(わびちゃ)」を創出し、武野紹鴎(たけの・じょうおう)を経て、16世紀後半に千利休が完成させた「茶の湯」と共に、茶室も発展を遂げました。お茶を飲むことに特化した小さな空間「茶室」を作るという日本独特の文化は、いつから始まったのでしょうか。

室町時代には、贅を尽くした「書院の茶」が流行

茶室の起源は室町時代。茶の栽培を奨励した三代将軍・足利義満の邸宅では、寝殿造の建物内にお茶を飲むために設けられた、屏風などで仕切った空間が茶室の始まりだと考えられています。
やがて武家住宅の形式が、座敷に床や棚、付書院などを伴っている「書院造」に移り変わると、茶会は「書院の茶」と呼ばれるようになりました。まだ「茶室」という言葉はなく、お茶を飲むための場所は「茶湯座敷」や「数寄屋」、「茶屋」などの名称で呼ばれていたようです。
この頃の茶会では、お茶は別室で点てたものをおもてなしの場へ提供されるのが当たり前でした。「書院の茶」はとにかく華やかで、唐物と呼ばれる中国からの渡来品が用いられ、客人は和歌などを詠んで興じていたのだとか。
余談ですが、八代将軍・足利義政が山荘として建立した東山殿(現在の銀閣寺)にある東求堂(とうぐうどう)の一角に設えられた四畳半の間「同仁斎(どうじんさい)」は最古の書院造の建物であり、一説では最古の茶室ともいわれています。

簡素なものの中に美を見出す「草庵の茶」

豪華絢爛な「書院の茶」に対して、四畳半ほどの座敷で茶を提供する茶会を提唱したのが「侘茶」の創始者である村田珠光です。“不足の美を求める精神”を重んじる「侘茶」は武野紹鴎によって洗練され、千利休によって「茶の湯」として完成させられました。

千利休は、侘茶の精神を究める場として、二~三畳ほどのごくシンプルで飾り気のない茶室「草庵(そうあん)」を作りました。必要最小限であることを目指して造られているため、丸太や竹、土壁といった民家に用いられる簡素な素材が使われているのが特徴です。
利休が提唱する侘茶は「草庵の茶」とも呼ばれ、茶の湯の主流となっていきました。

茶室を構成する要素

最後に、茶室を構成する代表的な要素についてご紹介します。

【露地(ろじ)】
茶室の外側には、外の世界と茶室とを分ける空間として「露地」や「茶庭」とよばれる庭が設えられています。
路地には椅子が置かれた「待合(まちあい)」があり、客人は亭主の準備が整うまでこの場所で待機します。
路地には四季折々の表情を見せる植栽があり、「飛石(とびいし)」をつたって歩いたり、「蹲(つくばい)」で手と口を清めたり…と、客人は美しい景色を楽しみながらお茶会に向けて心を整えるのです。

【露地(ろじ)】蹲(つくばい)】

【露地(ろじ)】茶庭

【にじり口】
「にじり口」は、千利休が考案したとされるおよそ70㎝四方の小さな出入口です。かつてはにじり口をくぐる前には日本刀などの装身具はすべて外す習わしがありました。
戸口を狭く作った理由については諸説ありますが、茶室の中ではすべての人が平等であることや、小さな出入口の向こう(茶室)に広がる豊かな世界を表現しているといわれています。

【にじり口】狭い入口

【炉(ろ)】
お茶を点てるお湯を沸かすためのものです。11~4月は畳に埋め込み式の「炉」、5~10月は置き型の「風炉」を用いるのが一般的です。

【炉(ろ)】11~4月で用いられる埋め込み式の「炉」

【炉(ろ)】5~10月で用いられる置き型の「風炉」

【床の間】
茶室内で1段高くなっている場所で、掛物や花入れなどを飾る場所です。茶室の中でも大切な場所とされ、亭主は季節や茶会の趣向に合わせてここに飾る掛物や花を考えることから始めるといわれています。

【床の間】1段高くなっている床の間は、掛物や花入れなどを飾る

【床の間】1段高くなっている床の間は、掛物や花入れなどを飾る

【水屋・水谷(みずや)】
茶の湯のために必要な茶道具を収納したり、茶器を洗ったりするための場所で、台所に相当します。客人に見えないよう、亭主側の入口側に設えるのが基本です。

【水屋・水谷(みずや)】茶器を洗ったりする場所

まとめ

京都にある寺院「妙喜庵(みょうきあん)」には、豊臣秀吉の命で利休が建てたと伝えられている茶室「待庵(たいあん)」があります。 日本最古の茶室建築で、国宝にも指定されていて、利休が追い求めた侘茶の精神、茶の湯の美学が色濃く反映されています。 待庵は、事前に往復はがきにて予約をすれば、外からの見学(拝観)ができます。茶室に興味を持たれた方に訪れていただきたいスポットです。

京都にある寺院「妙喜庵(みょうきあん)待庵(たいあん)」