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Column

三大こけしの一つ「鳴子こけし」を代表する「桜井こけし」。海外でも支持されるその魅力とは

宮城県鳴子温泉にて、江戸末期から代々続く木地師(※)の家系で、「鳴子こけし」の代表的なつくり手としても知られている「桜井こけし」。
「人々の暮らしと、ともにあるこけし」という想いを大切に、人々の生活に寄り添い、東北の鳴子温泉を、そして、櫻井家らしさを感じるもの作りを目指しているといいます。
伝統を受け継ぎながらも、常に新しいもの作りに挑戦し続けている「桜井こけし」の製品は、性別や国境を越え、多くの人に愛されています。

※木地師…轆轤(ろくろ)を挽いて木工作品を作る仕事

鳴子にある店内は美しく彩られたこけしが並ぶ

常に新しいもの作りに挑戦し続けている桜井こけし店様

京都の御所人形から発展した、愛らしい面立ちの「鳴子こけし」

――こけしには産地によってさまざまな特徴がありますが、「鳴子こけし」の特徴について教えてください。

「鳴子こけし」は、京都に伝わる「御所人形(ごしょにんぎょう)」に由縁があり、御所人形にも見られる、頭に水引で前髪を結んだ「水引手(みずひきて)」が描かれているのが特徴です。胴には菊の模様が描かれることが多いですね。
もともとは、子どもの健やかな成長を願う縁起物や卒業、新築祝いなど、人生の節目の贈りものとして発展しました。
形状の特徴としては、頭がはめ込み式で、胴は中ほどが細く、肩と裾が広がった形も特徴のひとつです。

子供の成長を願うために送られる「こけし」

卒業など人生の節目の贈り物として身近にある「こけし」

「鳴子こけし」には、それぞれの家で継承している型、そして系列が存在します。そして、親から子へ、師から弟子へ、師弟制度の中で感覚的に伝えられます。
先代、師のこけしをそのまま真似るものではなく、また、古いものを古い技術で作り続けるのでもなく、先代達の想い、精神、技術を受け継ぎながら、「自分らしさ」を表現していくことが大切です。
あどけなく、無心に微笑んでいる表情やシンプルなたたずまいには、雪深い東北のきびしい風土にさらされた、ひとの心の悲しみ喜びが静かに息づいているようだと言われます。

櫻井昭寛様作 伝統こけし

ろくろを用い、こけしの素材に使われるミズキの木で作られた「かがみもち」。

――「桜井こけし」ならではの特徴や、魅力とはどんな点でしょうか?

大きくは、櫻井家のこけしには、とても繊細な模様を描き込む特徴があります。

先代や師から受け継いでいるこけしのことを「伝統こけし」と呼び、伝統こけしには、そのこけしを作った先代の名前が付いた「型」があります。
とりわけ、櫻井家は受け継いでいる型が豊富なのが魅力のひとつです。「岩蔵型」「万之丞型」「健三郎型」などと呼ばれる型は、それぞれが個性豊かな形状、描彩をしています。

岩蔵型

「岩蔵型」「万之丞型」「健三郎型」の種類がある

先ほどもお伝えしましたが、型を製作するというのは、先代のこけしをそのまま写すことではありません。伝統こけしを作る時、いつもその根底には、櫻井家の先代達への尊敬の気持ちや愛情があり、背景を想像し、理解して、自分なりの形にしようと取り組みます。
先代のこけしとどう向き合うのか、1体のこけしに込められた想いをどう読み取るのか、工人(※)ごとの感性の違いが、自然と個性として現れます。
そこには、作る人それぞれの生き方がそのまま映し出されるような奥深さがあり、それが伝統こけしの魅力となっていくのだと思います。

※工人(こうじん)…こけし作りは分業ではなく、すべての工程を1人の人間が担うため、職人ではなく「工人」と呼ぶ

①秋:「伐採」伐採した木は葉をつけたまましばらく乾燥させる

②冬:「皮むき」道具を使い一皮ずつ手作業で皮を剝ぐ。

③春:「乾燥」木が割れるのを防ぐために乾燥を見極め、この後は屋内乾燥させる

④夏:「木地挽き」乾燥した木をこけしの形にけずる。写真は5代目の櫻井昭寛様による木地挽き

⑤夏:自家栽培の天然のヤスリ「いな草」。束ねてヤスリとして使い、きめ細かい艶を出す。大切な道具のうちの一つ

⑥夏:「描彩」一つづつ精密な筆づかいで描かれる伝統的な菊模様

木材を乾燥させる工程から「こけし」作りは始まっている

――「桜井こけし」では、原料の仕入れから行っているとのことですが、1体のこけしが完成するまで、どれくらいの時間がかかるのでしょうか?

木材を仕入れてから乾燥させて使えるようになるまで、1年~1年半の時間を要するため、1体のこけしが完成するまでに、最短でも1年半以上はかかります。
こちらは鳴子こけしによく用いられる「ミズキ」の場合で、その名の通り水分を含んだ木で、美しい白い肌が特徴です。乾燥をさせている期間も手をかけないと木が黒ずんでしまうため、ミズキ本来の白さを活かすように乾燥させるのが櫻井家のこだわりです。
ほかにもイタヤ、サクラなどさまざまな木 が用いられ、木肌の色や木目に個性があります。
木材の種類や太さによって乾燥期間が違い、それぞれの木材に合わせて乾燥させていて、ヤマザクラなど、3年以上の時間を要するものもあります。

左側より エンジュ・山桜・ナシ・イタヤカエデ・ミズキ。

木の特徴
エンジュ:一番濃く、黒に近い。魔除けの意味がある縁起の良い木と言われている。
山桜:葉が褐色で高級感がある落ち着いた色合い
ナシ:一番オレンジっぽい、黄色がかった茶色。
イタヤカエデ:赤みがかった優しい上品な色。ヤマザクラより薄い色。
ミズキ:木肌の色は白く、木目は目立ちにくい。

――木材の乾燥も大切な工程なのですね。 「桜井こけし」ならではのこけし作りについて教えてください。

こけし工人はすべての行程を自分で行うため、多岐にわたります。
轆轤の前に立っている だけが、工人の仕事ではないのですよ。
木の仕入れ、乾燥、木地挽き、描彩、そして道具作り。カンナ棒や薄刃などの道具はすべて自分で作るため、鍛冶仕事も行います。こけしを磨く道具は、昔ながらの方法を今も受け継ぎ、木賊(とくさ)と、いな草という植物を束ねて作ります。
「道具は美しく、綺麗じゃないといけない」
これは先代から受け継がれている櫻井家の道具作りへのこだわりであり、それぞれの工程一つひとつに、櫻井家の想いがつまっています。また、4代目・昭二の意志を継いで、こけし業を次世代へ繋げるため、ミズキの植林活動も行なっています。

6代目の尚道様による木地挽き

木地場にあるこけしづくりに欠かせない道具

常に「いま」の暮らしに寄り添う、新しいこけしを提案

――現代のライフスタイルに合わせた新作こけしの制作にも取り組まれていますが、デザインのヒントはどこから得ているのでしょうか?

例えば、先代が作ったこけし達や、四季折々の鳴子の豊かな自然――。
また、現代の名工といわれる東北の伝統こけしのこけし工人を訪ねたり、現代の伝統工芸品において先進的な活動を行っている企業や作り手を視察したりしている他、都心部にも足を運んでマーケティングを行っています。

――人気のこけしや、個人的にお気に入りのこけしはありますか?

お雛様の木地人形「ひいな」が一番の人気で、桜井こけしといえばお雛様と言われるくらい人気であり、定番にもなっています。
実はこけしのお雛様は櫻井家の4代目が開発して生み出したものなんですよ。
私自身は伝統こけしが好きなので、櫻井家の先代が作った伝統こけしがお気に入りです。

木地だるま

一番人気の「ひいな」。こちらの作品は段飾り

――鳴子温泉にある工房では絵付け体験も行われていますが、どのような体験ができるのでしょうか?

鳴子こけしの歴史や特徴、作り方に触れながら、本格的な絵付を体験していただきます。実際にこけし工人がこけしを描く際に使用する和筆と染料を使って、手回しろくろを使ったろくろ線まで施す本格的な絵付け体験ができます。

絵付け体験も行っている

プロと同じ道具を使って体験が可能

――プロと同じ道具を使ってこけし作りができるのですね。難しそうですが、挑戦してみたいです。

桜井こけし店様

たくさんのこけしが並ぶ店内

桜井こけし店様 HP https://sakuraikokeshi.jp/
住所:宮城県大崎市鳴子温泉字湯元26
アクセス: JR陸羽東線 鳴子温泉駅下車徒歩3分
TEL/FAX :0229-87-3575
営業時間:平日 10:00- 17:00、土日祝 9:30- 17:00
店休日:不定休 ※お問い合わせください