日本を代表する収納家具「和箪笥」。
生活様式が大きく変わった現代では、クローゼットなど洋箪笥を使う家庭が増えていますが、アンティークやヴィンテージなど年代物の和箪笥は、インテリアとして国内外のコレクターの間で高く評価されています。
今回は、そんな和箪笥の歴史を紐解きます。
江戸時代中期、上流階級を中心に普及
箪笥が誕生したのは江戸時代初期の1600年代、大阪で造られたのが始まりだといわれています。それまでは竹や植物のつるなどを編んだ葛籠(つづら)や行李(こうり)、木製の櫃(ひつ)、長持(ながもち)といった箱型の家具に、衣類やさまざまな家財道具などを収納するのが主流でした。
ただし、和箪笥を持つことができたのは上流階級の人のみ。
江戸時代末期から明治にかけて庶民の暮らしが豊かになり、持ち物が増えたことで、収納力が高く、必要なものが取り出しやすい箪笥が普及していきます。
箪笥はなぜ「棹」と数える?
ところで、なぜ箪笥は「一棹(さお)、二棹」と数えるのでしょうか。
江戸時代初期、長持の底に車輪を付けた「車長持(くるまながもち)」が愛用されていました。室内での移動や引っ越しの際などに移動しやすく、大変便利でしたが、明暦3年(1657)に起きた「江戸大火」では、大勢の人が一斉に車長持を持ち出したため、路地がふさがれてしまい、さらに木製の車長持に火が燃え移り、大惨事に……。その後、幕府は天和3年(1683)に車長持の製造を禁止しました。
やがて普及し始めた箪笥には、かついで持ち運びができるように、箪笥の側面に棹を通す「棹通し金具」が付けられたことから、「一棹、二棹」と数えるようになったといわれています。
代表的な和箪笥の産地
明治に入り、箪笥が生活必需品となると、全国各地で箪笥が作られるようになりました。
国の伝統的工芸品に指定されているものも含め、代表的な和箪笥をご紹介します。
・大阪泉州桐簞笥(おおさかせんしゅうきりたんす):大阪府岸和田市、堺市など
……素材はキハダ、キリ。和箪笥発祥の地・大阪で今も受け継がれる。
木材の横幅を確保する「矧ぎ加工(はぎかこう)」と呼ばれる高度な技術や、蒔絵など、見栄えがする箪笥。国の伝統的工芸品
・岩谷堂箪笥(いわやどうだんす):岩手県奥州市、盛岡市など
……素材はケヤキやキリなど。1100年代、奥州藤原氏初代当主の藤原清衡が力を注いだ産業が起源といわれている。
漆塗りで、手打ち、手彫りでカギのかかる堅牢な金具がほどこされている。国の伝統的工芸品
岩谷堂箪笥
・仙台箪笥(せんだいたんす):宮城県仙台市、塩竃市など
……素材はケヤキやスギ、クリなど。伊達政宗が青葉城を築城する際に、大工によって作られた建具がはじまりといわれている。
大きくて頑丈な金属製の飾りと、木目が浮かび上がる木地呂(きじろ)塗りが特徴。国の伝統的工芸品
・春日部桐箪笥(かすかべきりたんす):埼玉県春日部市
……素材はキリ。江戸時代初期、日光東照宮を作るために集まった職人が宿場町である春日部に住みつき、周辺で採れるキリの木使って指物や小物を作り始めたのが始まりであるとされる。
シンプルで質実剛健なつくり。国の伝統的工芸品
仙台箪笥
・越前箪笥(えちぜんたんす):福井県越前市、鯖江市
……素材はケヤキやキリなど。釘やネジを使わない指物技法によって造られる。継ぎ目に金具を付け、全体に漆塗りを施し、重厚感のある造りが特徴。
漆塗りには越前塗の技術が用いられる。国の伝統的工芸品
・加茂桐箪笥(かもきりたんす):新潟県加茂市
……素材はキリ。19世紀ごろに大工が作ったものがはじまりといわれている。
昭和初期には矢車(やしゃ)の実を使った「矢車塗装(やしゃとそう)」が開発され、現在の桐箪笥のデザインが完成。
全国の桐箪笥の70%が加茂市で生産されている。国の伝統的工芸品
・紀州箪笥(きしゅうたんす):和歌山県和歌山市など
……素材はキリ。起源はわかっていないものの、紀州徳川家の歴史が記された「南紀徳川史」などによると江戸時代後期から箪笥が作られており、
武家の間でも婚礼箪笥として用いられていたことがわかっている。キリの色や質感を生かした上品なつくりが特徴。国の伝統的工芸品
・名古屋桐箪笥(なごやきりたんす):愛知県名古屋市
……素材はキリ。名古屋城築城に携わった職人が箪笥や長持を作るようになったのがはじまりといわれている。
他の産地に箪笥よりも20㎝ほど幅が大きく作られているのが特徴。名古屋には嫁入り道具にお金をかける風習があり、婚礼箪笥としても発展した。国の伝統的工芸品
・三国箪笥(みくにたんす):福井県坂井郡三国町
……素材はケヤキやキリなど。黒く艶のある鉄の金具が施された、重厚感のあるデザイン。
江戸中期から明治末期にかけて日本海を往来した北前船にのせられていた「船箪笥」が有名
・二本松箪笥(にほんまつたんす):福島県二本松市
……素材はケヤキやキリなど。300年以上の歴史があると伝えられる上下に分かれる「重ね箪笥」が知られている。
漆塗りで、鍵穴を隠す錠前に意匠を凝らしたデザインを施したものがよく見られる
・庄内箪笥(しょうないだんす):山形県酒田市、鶴岡市
……酒田市で作られたもの、鶴岡市で作られたものがあり、前者は「船箪笥」や、金品や印鑑を収納するために用いられた「帳場箪笥」、
後者は衣裳箪笥をメインにつくられていた。金具のデザインなどにも違いが見られる
・山形最上箪笥(やまがたもがみだんす):山形県村山市
……山形の鶴岡や仙台箪笥の影響を受けて作られたのがはじまりといわれている。
錠前に家紋を彫り込んだものが流行し、婚礼箪笥荷も用いられた
・米沢箪笥(よねざわたんす):山形県米沢市
……素材はケヤキやキリなど。蝶や桜、宝珠などを彫り込んだ華やかな金具が特徴。
最も多いのは「重ね箪笥」で階段型の「階段箪笥」や車付き箪笥など意匠を凝らしたデザインのものも
・佐渡箪笥(さどたんす):新潟県佐渡島
……発祥は北前船の寄港地であった佐渡島で、豪華絢爛なデザインが特徴。
小木地方と八幡地方で作られたものがあり、とくに小木地方のものは美術品としても高く評価されている
佐渡箪笥
まとめ
多くの箪笥の原料となっているのは「キリ(桐)の木」。
軽くて持ち運びがしやすいことから桐製の箪笥が作られたと考えられていますが、木目の美しさや通気性・防湿性に優れている、燃えにくいなど機能的で、日本の気候にぴったりの家具といえるでしょう。
熟練の職人によって作られた箪笥は丈夫で、親から子へ、またその子へ・・・と代々受け継がれることも少なくありません。
畳張りの和室だけでなく、洋間に置くと小さなものでも存在感があり、モダンな印象になります。和箪笥のある暮らしを、楽しんでみてはいかがでしょうか。