さまざまな食材が旬を迎えるこの季節、お気に入りの日本酒と一緒にご馳走を楽しむ人も多いのでは? 今回は、日本酒がより美味しく飲める酒器の選び方をご紹介します。
「銚子」と「徳利」は別もの!
皆さんは普段、どんな酒器でお酒を飲んでいますか?
酒器といっても陶磁器や錫、ガラスと素材も形も様々です。
まずは、お酒を注ぐための酒器から解説していきましょう。
・銚子(ちょうし)
もともとは、金属製や木製の、長い柄が付いた蓋付きの柄杓のような形状の酒器を指す言葉でした。銚子に汲んだお酒は、「提下(ひさげ)」と呼ばれる酒器に移され、さらに徳利を経て、お酒を飲むための盃(さかずき)へ注がれていました。
ちなみに、ひな人形の三人官女の内、右端の官女が手にしているものが「銚子」、左端の官女が手にしているものが「提下」です。
やがて蓋付きの提下を「銚子」と呼ぶようになり、直接盃や猪口へ注がれるように。
現在も「銚子」は、結婚式の三三九度などの儀式に用いられています。
・德利(とっくり)
口が狭く、胴のふくらんだ形状の酒器を指します。語源は諸説ありますが、お酒を注ぐ時に「トクリ、トクリ」と音がすることからその名が付いたのだとか。
現在は、1合(180ml)、または2合(360ml)のものが一般的ですが、もともとは一升(1800ml)~三升(5400ml)と大きく、日本酒や醤油、お酢などの液体や穀物を貯蔵、運搬するための役割を果たしていました。
江戸時代に入ると1号サイズの徳利が誕生し、直接盃へ注がれるようになります。
お銚子
德利
ところで、古い映画作品やドラマなどのお酒を飲むシーンで「お銚子1本!」という声を聞いたことはありませんか? しかし、ここで指す「お銚子」とは徳利のこと。どちらも直接酒を注ぐという共通点から、いつしか混同されるようになったのではないかと考えられています。
・片口(かたくち)
文字通り、片方に注ぎ口が付いた酒器のことで、甕(かめ)や壺などに入った酒を盃や猪口に移すための道具として使われたのが始まりといわれています。
陶磁器や漆器、錫などさまざまな素材で作られています。
・ちろり
燗酒専用の酒器。筒形で、取っ手と片口のように注ぎ口が付いているのが特徴です。
錫(すず)、銅、真鍮などの金属で作られており、京都や大阪では「湯婆(たんぽ)」とも呼ばれています。
片口
ちろり
酒器によってお酒の味わいが変わる!?
お酒を飲むための酒器を選ぶ際の大きなポイントは「材質」と「形状」、そして飲み口の「厚み」。
酒器に使われる主な材質は、陶磁器、錫や銅などの金属、漆器、木、ガラスなど。
一般的に、金属やガラスは口あたりが「冷たい」、土を原料に作られる陶器や木は口あたりが「温かい」「やわらかい」と感じられ、飲み口が薄い酒器はシャープでキレのある味わい、厚いものは味がやわらかく、まろやかになるといわれています。
ガラス
陶器
錫には金属特有のにおいがなく、水や酒を注ぐと味わいがまろやかになるほか、保温性に着目したステンレス製の真空二重構造の酒器なども売られています。
この他、木に漆を塗り重ねる漆器や、ガラス質が多く含まれる磁土で作られる磁器は、それぞれの特徴を併せ持つため、“良いところどり”の酒器といえるかもしれません。
化学的な根拠があるわけではないものの、酒器によって味わいの「感じ方」が変わるため、飲みたいお酒やシーンに合わせて使い分けるのがおすすめです。
錫
漆器
木
ここからは、さまざまな酒器や形状による違いについてご紹介しましょう。
[主な酒器の種類]
●平盃(ひらはい・ひらさかずき)
「平盃」とはその名の通り、口が広くて平たい形状の盃のこと。
飲み口が広いので香りが立ちやすく、酒全体の旨みを味わうことができます。
三三九度など儀式の際には漆器の平盃が用いられますが、陶磁器で小型の平盃も広く販売されています。
●升、枡(ます)
お酒をはじめ、液体や穀物を軽量するために使われていた「升」が、酒器として用いられるようになったのは、メートル法が主流となった明治期以降といわれています。
神事とゆかりがあるスギやヒノキで作られていることや、「福が増す」などになぞらえ、縁起物として親しまれ、お正月などハレの日の酒器として用いられます。
また、お酒を注ぐと爽やかな木の香りが広がるのも特徴。すっきりとした味わいのお酒を楽しむときにおすすめです。
平盃(ひらはい・ひらさかずき)
升、枡(ます)
●猪口(ちょこ)、ぐい吞み
日本酒を飲む時に最もよく使われているのが「猪口」や「ぐい吞み」です。特に定義があるわけではないのですが、「猪口」はひと口でクイッとお酒を飲み干せる容量で、猪口よりもひと回り大きいものが「ぐい吞み」と呼ばれています。
陶磁器をはじめ、漆器、ガラス、錫などさまざまな素材で作られています。
●グラス
キリリと冷やした冷酒を飲むなら、ガラス製のグラスがぴったり。飲み口が薄く、ガラスそのものにはにおいがないため、酒本来の香りや味わいがダイレクトに楽しめるのが特徴。濁り酒など、目で見てお酒を楽しみたいときにもおすすめです。
猪口(ちょこ)、ぐい吞み
グラス
[形状で選ぶ]
●お椀型
最も王道の「お椀型」は、ひとつは持っておきたい酒器。どんな味わい、温度帯で楽しむ日本酒にも適しているといっても過言ではありません。
●つぼみ型
テイスティンググラスのように飲み口がすぼまった「つぼみ型」。香りを逃さない形状で、濃厚な香りや甘みをゆっくり味わうことができます。
●ラッパ型
“ラッパ”のように、飲み口が上に大きく広がっている「ラッパ型」の酒器は、日本酒本来の香りをダイレクトに楽しみたいときに最適です。
●ストレート型
他の酒器と比べて、鼻と器との距離が遠いため、香りはあまり広がらないものの、スッキリと味わうことができます。
お椀型ではクセが強い、飲みにくいと感じたお酒を、ストレート型で飲んだらおいしく感じられた、という例も。
お椀型
ストレート型
つぼみ型
(まとめ)
さまざまな酒器や、選び方のヒントについてご紹介しましたが、ひと言で「陶磁器」や「ガラス」といっても産地や作り手によってさまざまな個性があり、ワイングラスで日本酒を楽しむ人も。
ルールがないからこそ、自分なりの「このお酒には、この酒器」というペアリングを見つけるのも楽しいものです。お気に入りのお酒と酒器の組み合わせを見つけてみては。