日本の食べ物は、ただの食事以上に、その時代の人々の生活や文化を映し出す鏡のような存在です。
おにぎりや寿司といった定番から、発酵食品の納豆まで、時代を超えて親しまれる食べ物たち。それぞれの背景には、武士や文化人のちょっとしたエピソードや意外な歴史が隠れています。
今回は、日本発祥の食べ物を時系列で辿りながら、その知られざる物語を覗いてみましょう。
古代~奈良時代(弥生時代~710年)
古代の日本人は、どんなものを食べていたのでしょうか?この時代は保存食や発酵食品が主役。
意外にも、今でも食卓に並ぶあの定番メニューが生まれた時代でもあります。
●おにぎり(弥生時代:紀元前300年~300年)
実は、日本最古のおにぎりは石川県の遺跡で発見されています!
炭化した状態で出土したおにぎりの跡から、形やサイズが今とほとんど変わらないことがわかりました。
当時は携行食として、農作業や旅のお供に重宝されていたとか。まさに現代の「コンビニおにぎり」の元祖です。
そして、「おにぎり」という名前には、家族を結ぶという意味も込められています。
●納豆(弥生時代~奈良時代:紀元前300年~794年)
納豆の発祥には諸説ありますが、よく言われるのが「戦場で偶然できた説」。
武士たちが煮た大豆を藁に包んで持ち運んだところ、発酵が進み、あの独特の粘りが生まれたとか。
奈良時代には栄養価が重視され保存食として、貴族や僧侶にも愛用されました。
おにぎり
納豆
●味噌(弥生時代:紀元前300年~300年)
味噌の歴史は長く、弥生時代にその原型が誕生しました。
当時は「塩辛い調味料」程度の使われ方でしたが、仏教が広まると精進料理に欠かせない食材に。
保存が効くうえに栄養価が高く、武士たちの長期戦にも欠かせない食品でした。
現代でも毎朝の味噌汁は、昔からの日本の習慣です。
●漬物(奈良時代:710年~794年)
奈良時代に誕生した漬物は、長い歴史の中で地域ごとに個性を持ちました。
中でも奈良漬けは、酒粕で漬けた独特の風味が特徴。
味噌
漬物
平安時代(794年~1185年)
この時代、食文化はさらに洗練され、宮廷の中では見た目の美しさや季節感や芸術的な要素が求められました。
●和菓子(平安時代:794年~1185年)
平安時代の貴族たちは、甘いものに目がありませんでした。
砂糖がまだ貴重だったため、甘味は基本的に果物や蜂蜜から得ていましたが、それでも餅や団子を工夫して彩りを添えていました。
『源氏物語』にも和菓子を楽しむシーンが登場します。四季を表現した繊細なデザインは、平安貴族の美意識を反映しています。
●梅干し(平安時代:794年~1185年)
「ちょっと疲れたら梅干しを」というのは、現代だけではありません。長旅をする貴族や武士にとって、梅干しはまさに万能薬。
疲労回復や防腐効果で、命を救う食べ物として重宝されていました。
お団子
梅干し
鎌倉~室町時代(1185年~1573年)
武士が台頭したこの時代は、栄養価の高い実用的な食文化が発展しました。さらに禅宗の影響で「質素でも深みのある料理」が広がります。
●おでん(田楽)(鎌倉時代:1185年~1333年)
当時の「おでん」は、今とは少し違って、焼いた豆腐に味噌を塗ったシンプルなもの。源頼朝の宴席で提供されたとの説もあります。
●出汁(室町時代:1336年~1573年)
出汁は、この時代に確立されました。茶道を確立した千利休が、茶懐石料理で昆布や鰹節を用いた出汁を取り入れたことで、日本料理の基礎が出来上がったのです。お茶席での出汁の香りが、訪れた人々の心を癒したことでしょう。
●煎餅(室町時代:1336年~1573年)
煎餅と聞くと甘いお菓子を想像しますが、この時代の煎餅は塩味や醤油味が主流。織田信長は、煎餅を戦場での携行食に使っていたとも言われています。
おでん(田楽)
出汁
煎餅
安土桃山時代(1573年~1603年)
異文化交流が盛んになり、ポルトガルやスペインの影響を受け、日本の食文化が一段と豊かになった時代です。
●天ぷら(安土桃山時代:1573年~1603年)
ポルトガルから伝わった料理を元に、日本独自の調理法が加えられた天ぷら。
豊臣秀吉の「黄金の茶室」の宴席で、天ぷらが出されたという逸話もあります。
●金平糖(安土桃山時代:1573年~1603年)
ポルトガル由来の金平糖は、その美しい見た目から贈答品として人気に。
秀吉が外交の一環で金平糖を贈ったという話は、有名です。
豊臣秀吉の「黄金の茶室」の宴席で出されたという天ぷら
ポルトガル由来の金平糖
江戸時代(1603年~1868年)
庶民の食文化が花開きました。江戸の街には食べ物を提供する屋台が並び、ファストフードの元祖が誕生します。
●寿司(握り寿司)(江戸時代:1603年~1868年)
屋台の人気メニューだった握り寿司。庶民の間では「早い、安い、美味い」の代名詞として定着しました。
浮世絵師の葛飾北斎も、寿司を題材にした作品を残しています。
●蕎麦(蕎麦切り)(江戸時代:1603年~1868年)
江戸の立ち食い蕎麦は、現代のフードコートのような存在でした。松尾芭蕉も、旅先で蕎麦を楽しんだ句を残しています。
寿司
蕎麦
昭和~現代(1926年~)
昭和以降、日本食はさらに多様化し、世界に進出しました。
●たこ焼き(昭和時代:1926年~1989年)
昭和初期に大阪で誕生したたこ焼き。最初はソースではなく醤油味だったとか。現在は「Japanese street food」として海外でも親しまれています。
●寿司(現代:1980年代~)
寿司は、海外で「ヘルシーな食事」として評価されました。現代では、寿司が世界中で愛されるようになりました。カリフォルニアロールやドラゴンロールなど、日本の伝統と海外のアイデアが融合した寿司が次々と登場しています。
大阪で誕生したたこ焼き
現地アレンジも加わり海外でも定着したカリフォルニアロール
雑学と一緒に味わう日本の食文化
日本発祥の食べ物は、ただの料理ではなく、その背後に時代や人々の物語が詰まった「文化の記録」です。納豆や寿司のように古代から続くものもあれば、たこ焼きや天ぷらのように時代と共に変化してきたものもあります。
それぞれの食べ物に秘められた歴史やエピソードを知ると、いつもの一皿がより特別なものに感じられるかもしれません。