春の陽気が広がり、桜が舞い、草花が次々と芽吹く季節——4月。
この美しい季節を、日本人は昔から「卯月(うづき)」と呼び親しんできました。
本記事では、卯月の意味や由来、古典文学とのつながり、自然や文化、暮らしへの取り入れ方まで、春の豊かさを感じられる内容でご紹介します。
1. 卯月とは?4月の和風月名の意味と由来
▶卯の花が語源?
卯月の語源には諸説ありますが、有力とされているのが「卯の花(ウツギ)」に由来する説です。
卯の花は白く小さな花を咲かせ、4月下旬から初夏にかけて里山などで見られます。静かで控えめな花姿ながら、古来より日本人の感性に響いてきました。
▶「卯」がもつ春の意味
「卯」という文字には「開く」という意味もあります。これは、春になり植物や花々が一斉に芽吹く様子と重なります。
つまり卯月という言葉には、春が本格的に始まり、自然の命がいよいよ動き出すという季節の息吹が込められているのです。
うつぎ
芽吹く季節の卯月
卯月と旧暦と新暦の違い
▶本来の卯月は5月だった?
「卯月」はもともと旧暦で4月を指しており、現在の新暦ではおおよそ5月上旬に相当します。つまり、本来の卯月は初夏に近い季節感を持っていました。
▶暦と自然のズレを知る
現在では、新暦4月を卯月と呼ぶのが一般的ですが、旧暦とのずれにより、実際の気候や植物のタイミングと微妙に異なる部分があります。
和風月名は、自然のリズムを表す感性から生まれた名前。だからこそ、その背景を知ると、季節への理解がより深まります。
3. 卯月の歴史と文学に見る春の情景
▶万葉集に詠まれた卯の花の風景
『万葉集』では、大伴家持による以下の歌がよく知られています。
「卯の花の 香にこもごもに 衣手に 春雨そそぐ」
白い卯の花に降り注ぐ春雨。しっとりと濡れる袖に、その香りが移るような繊細な春の一場面が詠まれています。
▶『源氏物語』の宮中行事と春の雅 平安時代の文学『源氏物語』では、卯月の宮中行事や庭に咲く花々が美しく描かれています。 貴族たちが春の移ろいを愛でていた様子から、卯月が特別な季節であったことが伝わってきます。
4. 卯月の自然と風物詩を楽しむ
▶桜の余韻と花のリレー
桜が満開を迎え、風に舞う花びらが春の訪れを告げる時期。
桜が散ると、藤の花やチューリップ、菜の花が次々と見頃を迎え、春のバトンは色とりどりに渡されていきます。
藤の花
チューリップ
▶卯月の長雨が育む新緑
この季節には「卯月の長雨」と呼ばれる春雨がしとしとと降り始めます。
花や木々を静かに潤し、新緑の成長を後押しするやさしい雨は、自然の大きなサイクルの一部。四季とともにある日本ならではの風景です。
5. 卯月と新たな門出の文化
▶入学式・入社式がもたらす春の記憶
4月は日本で新年度が始まる月。入学式や入社式が全国各地で行われ、満開の桜の下、新たな生活が始まります。
ランドセルを背負った新入生、希望に満ちた新社会人の姿は、卯月を象徴する“人の風物詩”とも言えるでしょう。
日本では入学式や入社式が行われる
ランドセルを背負った新入生
▶桜とともに踏み出す第一歩
桜の花びらが舞うなかで交わされる「おめでとう」や「よろしくお願いします」。
卯月には、人と人との新しい関係が始まる、そんな希望に満ちた空気が流れています。
6. 春の味覚と卯月の暮らし
春の食材は、卯月の恵みそのもの。
• 筍(たけのこ):香り高いたけのこご飯や若竹煮に。
• 山菜(ふきのとう、こごみ、たらの芽など):春の苦味を楽しむ、身体を目覚めさせる食材。
• 春キャベツ・鰆(さわら)・新じゃが:柔らかくみずみずしい春野菜と魚。
たけのこ
山菜のこごみ
▶暮らしに春を取り入れる
旬の食材を使った料理を味わうことに加え、花を飾ったり、ベランダで植物を育てたりすることで、自然を暮らしの中に招き入れることができます。
日々のちょっとした工夫が、心に季節の彩りをもたらしてくれます。
7. まとめ|卯月が教えてくれる、春の豊かさ
卯月という和風月名には、春が深まり、自然も人の暮らしも動き出す「始まりの力」が込められています。
その意味や背景、文学や季節の風物詩に触れることで、4月という月の奥行きが見えてきます。
自然を感じ、文化を味わい、春の恵みを暮らしに取り入れる——
そんな丁寧な時間の過ごし方を、卯月は私たちにそっと教えてくれるのです。
●写真で紹介する日本の4月
4月に見られる花や植物:フリージア
4月に見られる花や植物:ハナミズキ
山菜取りが盛んになる
鶯餅:鶯に似せたお持ちの中にあんこが入った和菓子