「鳴子こけし」の作り手であり、江戸時代末期から6代にわたりこけしを作り続けている「桜井こけし」。
伝統を受け継ぐとともに、いまの暮らしにも寄り添う、新しいこけし作りにも積極的に取り組んでいます。2017年には「株式会社こしき」も立ち上げ、国内外に向けて「鳴子こけし」の魅力を発信しています。
ミニ鳴子こけし
最近は海外でもとても人気のあるこけし
江戸末期から受け継がれる、鳴子だからこそできる「鳴子こけし」への想い
――代々受け継がれていることや、先代からいただいた大切なことばなどがあれば教えてください。
櫻井家のこけし作りに対する思想の軸を作った先代・大沼岩蔵はこう語っています。
「これで覚え上がったということはない。一代一生の稽古だ」
この言葉に表されるように、櫻井家に脈々と受け継がれるこけしへの想いが、探究心を駆り立て、新たなものづくりへと繋がっています。
また、岩蔵に学んだ先代・櫻井昭二はこのような言葉を残しました。
木々の葉が鮮やかに色づき、長い冬の訪れを告げる花渕山。
その花渕山を臨む鳴子温泉は、古くから湯治場として知られています。
鳴子こけしは、宮城県北西部山間のこの地で、江戸末期に始まり独自の発展を遂げてきました。
鳴子温泉の風土だからこそ生まれ、育まれたこけしの文化を大事にすること。そして、これまでの技術や定義にとらわれることなく、独創的な表現を大事にすること。
この言葉には、そんな2つの想いが込められています。
花渕山
湯治場として有名な鳴子
先代達は、伝統を受け継ぎながら、それぞれの時代にて常に新しいものを作ろうと挑戦し続けてきました。
私達も次世代を見据え、現代におけるこけし業のあり方、こけし工人としての生活、地域におけるこけし業の役割などを模索し続けています。
時代や環境の変化の中で、ものづくりの家業を続けて行くために、変えるもの、変えないものを常に考え活動していきたいと思っています。
――現在、「桜井こけし」でこけし制作に取り組まれている工人の方をご紹介いただけますか。
左:5代目の櫻井昭寛様 右:6代目の尚道様
現在は5代目の櫻井昭寛と6代目の尚道の親子二人で、こけし作りを行なっています。
櫻井家は、鳴子系こけし工人の中でも古い家柄のひとつとして知られており、戦前から多くの名工を輩出してきました。
こけしを作り続けて五十年を迎えた5代目・明寛は、先代達のこけしを誰よりもたくさん見て向き合い、深く理解し、自分の感性を通して表現し続けています。伝統こけしの他にも「ひいな」「だるま」「縁起物」などの制作にも力を入れ、その手は今なお止まることはありません。
また、こけしを作る父や祖父の姿を見て育った私(6代目)は、誰よりも先代達のことを愛し、彼らから学ぶ姿勢を忘れません。一度は家業を継ぐことを反対されましたが、どうしても諦められず、26歳の頃に戻り、本格的に製作をはじめました。
伝統のこけしとは一味違う「木地だるま」
一番人気の「ひいな」
歴史や経験に頼らない、誠実なものづくり
――ものづくりにおいて最も大切にされていることを教えてください。
私(6代目)が大切にしているのは、父から教えられている「自分に嘘をつかず、奇を衒(てら)わず、こけしと向き合うこと」です。
他の伝統工芸においてもそうですが、こけし作りには多くの工程や手間がかかります。
完成したこけしや作品だけを見ても、一般のお客様にはその工程や手間は、わからないかもしれません。
あるいは、多少誤魔化したり、修正したりしていても、気づかれないかもしれません。
だからといって、工程を省いたり、誤魔化したり、奇を衒う表現で逃げたりしてしまったとしても、自分だけはそのことを知っています。
その自分への嘘が、自分自身の成長を妨げます。
今の自分の技術や表現力を受け入れて、今の自分が作ったこけしを通して自分の足りない部分を学び、常に改善していくことを大切にしています。
――2017年に立ち上げられた 「こしき」の役割について教えてください。
「こしき」では、こけしの開発・販売をはじめ、海外展開、 鳴子観光プログラムの提供、ギャラリー・カフェの運営、植林活動を行なっています。
“こしき”とは車輪の中心部分のことで、私たちも“こしき”のように、歯車の中心となって、鳴子温泉内外の人やもの、ことをつなぐような活動を行っていきたいという想いから名づけました。
鳴子温泉の豊かな自然、そこに暮らす人々、こけし作りには、そんな鳴子らしさが息づいています。鳴子温泉の魅力、古くからの習慣や文化を受け継いで守りながら、それらを時代に合わせた形で伝えていきたい。そんな思いを胸に、鳴子らしい習慣・文化・生活を人びとと共につくり、つなげ、伝える活動を行っています。
「こしき」では植林活動を行っている
鳴子らしい習慣・文化・生活を人びとと共につくり、つなげ、伝えている
次の100年も愛される、新しいこけし作りに挑戦したい
――これから挑戦してみたいこと、思い描く未来はありますか?
伝統を受け継ぐこけし工人としては、まだ挑戦できていない、先代達の伝統こけしに挑戦していきたいです。先代達に少しでも追いつけるようなこけし工人を目指したいと思います。
また一方で、家業であるこけし業を受け継ぐ経営者としては、現代の暮らしに あうこけしの開発、たとえばアーティストとのコラボ商品や、「Reflections」シリーズなどのように今の時代あったこけしの製作に取り組んでいきたいです。
また、明治生まれの先代が生み出し代々受け継ぎながら発展していった「帽子のこけし」のように、これから100年続く新しいこけしを自分でも生み出したいと思います。
「Reflections」シリーズ
「Codama」シリーズ
そして、鳴子温泉でこけしを作りたい、鳴子温泉で働きたいと次の世代の人たちに思ってもらえるように、「鳴子温泉には、豊かな暮らしがあるよ」と自信をもって伝えられるように、取り組んでいきたいと思っています。
桜井こけし店様
たくさんのこけしが並ぶ店内
桜井こけし店様 HP https://sakuraikokeshi.jp/
住所:宮城県大崎市鳴子温泉字湯元26
アクセス: JR陸羽東線 鳴子温泉駅下車徒歩3分
TEL/FAX :0229-87-3575
営業時間:平日 10:00- 17:00、土日祝 9:30- 17:00
店休日:不定休 ※お問い合わせください