四半期(2022年7~9月)実質GDP成長率(第二次速報季節調整系列値): 前期比 -0.2%
四半期実質GDP実額(第二次速報原系列値):135兆2362億円/前年比1.5%(出典:内閣府)
明けましておめでとうございます。2023年に入り第一段目となるMARE月例不動産市況レポートですが、今回は以下の章立てにて記して参ります。1.岸田政権の経済政策について、2. 不動産市況関連情報:実態経済基本情報について、3. 不動産市況関連情報:景況感について、4. 今後の不動産購入について、になります。上記した中で、1では2023年中に不動産に関係する困難な状況について確認して参ります。
これが、読者様の不動産購入・売却の好機を知るための一助となれば幸いです。
【1.「人への投資」環境整備のための政府諸政策について】
今年、不動産市況に影響を与えそうな主要な出来事は以下の三点であると考えられる。第一に、日銀新総裁着任の4月前後に利上げが行われそうだという予測である。先月、長期金利の変動幅許容利率を若干引き上げた結果、10円程円高が進んだことからもその影響の大きさが計り知れる。第二に、主に中古マンションを中心とした不動産在庫が増加傾向にある点について。不動産市況の先行き不安等に係る影響から、成約件数は減少しており、それに伴い首都圏における不動産在庫が増加している事実は、今後の不動産市況に影響を与えうる事として注目される。第三に、資源価格の安定化傾向である。WTI原油は6月6日に120米ドルを付けたのが最高値で、直近の1月2日は75米ドルと下落基調である。それでもなお、コロナ前の水準よりも高値を付けているが、今後も欧州情勢次第で高低揺れ動くはずだが、世界の中央銀行は金融引き締め策を強めており、今年中に再び100米ドルを超えるほどの値上がりを示す可能性は極めて低いと考えられる。一方、産油国の地政学リスクや石油開発関連施設への投資額が減少していった場合には、エネルギー価格が高騰する可能性が高い。
こうした新年の懸念を念頭に岸田総理はいかなる政策を計画しているのか、12月22日首相官邸で開催された「令和4年第16回経済財政諮問会議」及び会議結果の会見から確認していく。
まず、岸田内閣は、2023年度は世界経済減速の傾向が予測されるものの「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」が本格的に機能しだし「人への投資」や成長分野における官民連携の下での投資が促進されることで、実質1.5%程度、名目2.1%程度の民需主導の経済成長が見込まれるとしている。中でも官民連携投資を基盤に据えた総合経済対策の結果、民間投資が促進され、対前年度比5.0%程度増加することを予測している。また、鉱工業生産についても、内需回復に伴い対前年度比で2.3%程度増加するだろうとしている。雇用者数も対前年度比 0.2%程度の増加することを見込んでおり、完全失業率2.4%程度へ低下するとする。そして、岸田政権「新しい資本主義」の要となる実質国民総所得(実質GNI)については、日本国外事業の伸びや対日投資増に伴う所得増加が見込まれ、実質GDP成長率を上回る対前年度比1.8%程度増加する事が見込まれるとされる。これまでの経済の実態はどうであったか。以下で確認する。
【2.不動産市況関連情報:実態経済基本情報】
以下では、実態経済基本情報について確認していく。
表1によると、新設住宅着工数は前月比で4,218戸減少し、前年比では1.4%減の72,372件となり、前月、前年比共に減少を示した。内訳は持家が21,511戸と、前年同月比で15.1%減と12か月連続の減少を示し、貸家は29,873戸と前年同月比11.4%増と、21か月連続の増加を示した。また、分譲住宅は20,642戸と前年同月比で0.8%減と4ヶ月ぶりの減少を示した。持ち家は、民間・公的資金共に減少したため、持ち家全体で減少となった。貸し家は、民間・公的資金共に増加したため、貸し家全体で増加。分譲では、マンション、一戸建て共に減少し、分譲住宅全体での減少となった。また三幸エステート(株)より11月に公表されたデータでは、東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の空室率が4.32%と前月比で0.25%低下し、これで3ヶ月連続低下していることが確認できる。(株)オフィスビル総合研究所の予測によると、今後も需要が供給を大きく上回り続けるため、2025年の第三四半期頃にコロナ前の水準に近づく2.5%の値を付けるとし、今後も緩やかな低下が予測される。
一方、表2、一都三県に限った新築分譲マンション市場動向は、供給戸数で47.4%減少した。
前月号で確認したように、昨年11月に大型物件が販売されたことも今回の結果に大きく反映されていることが予測されるが、先月4,945件であった残戸数が今回は5,079戸と134戸増加している。供給戸数は千葉県以外の全ての地域で減少し、契約率は全エリアマイナスを付けた。平均販売価格及び平米単価はほぼ横ばいで推移したが、20階以上の超高層物件契約率は65.9%と、2022年1月以来の低水準となった。発売戸数は前年同月比14.9%減少の1,128戸と二ヶ月連続で減少した。初月契約率については、2021年9月以来の70%割れの58.4%を示した。一方、平均価格は6,157万円で平米単価は94.7万円と、3ヶ月ぶりの上昇を示した。
(出典:東京、神奈川、埼玉、千葉各行政府人口統計資料を基に筆者作成 / 2023年1月7日時点)
人口の増減については、東京都が8ヶ月連続増となる3,806人増を示し、神奈川県も2022年6月ぶりとなる増加を示し、698人増となった。一方で、他2県では減少した。減少した県に限ると10月期は3,157人が減少していたが、11月期は499人の減少と、これまでと比べて比較的落ち着いた人口減少となった。同じく10月期に3,589人が転入した東京は、11月期には更に増え、3,806人の転入となり、東京の増加幅が群を抜いて多い傾向が続く。先月同様、コロナ情勢が落ち着いたことで、一時的に都会から地方へ引っ越していたいわゆる「コロナ疎開」をしていた人々が、続々戻ってきたと予測される。
【3.不動産市況関連情報:景況感について】
本節では、不動産市況に係る景況感を確認していく。まずはマクロデータから確認する。
表4、全国消費者物価指数によると総合値は先月より0.1%増加し3.8%となり、生鮮食品を除く総合は0.1%増え3.7%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合では0.3%増加し2.8%となった。生鮮食品を除く総合の前年同月比3.7%上昇は、イラン革命に伴う原油生産量の激減が引き金となった第二次石油危機を受けた1981年12月以来40年11ヶ月ぶりの高水準となった。これに対し政府は12月2日、令和四年度・第二次補正予算を成立させ、物価高騰対策として7.8兆円の予算を組んだ。冒頭で述べた世界経済状況に加え、こうした政府の政策が功を奏した場合、今年からは物価上昇が緩やかに下がっていくことが予測できる。
図3、内閣府景気動向指数によると、先行指数は前月と比較して1.0ポイント(以下「P」)下降し、2ヶ月ぶりの下降となった。3ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を8、9、10月の平均及び9、10、11月の平均と比較して出した高低値)は1.34P下降し、3ヶ月連続の下降となり、7ヶ月後方移動平均(調査対象月の数値を、4、5、6、7、8、9、10月の平均及び5、6、7、8、9、10、11月の平均と比較して出した高低値)で0.69 P下降し、3ヶ月連続の下降となった。
一致指数は前月比0.5P下降、3ヶ月連続の下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.74P下降し2ヶ月連続の下降となった。7ヶ月後方移動平均は0.30P上昇し13ヶ月連続上昇となった。
遅行指数は前月比で1.7P上昇し、4ヶ月連続の上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.73P上昇、12ヶ月連続上昇した。7ヶ月後方移動平均は 0.66P上昇し、9ヶ月連続の上昇となった。
先行及び一致指数は減少し、一致指数では上昇を示した。以下では、前月と比べて低下傾向を示した内訳情報を記す。先行指数では、最終需要財在庫率指数が0.49%減少し、鉱工業要生産財在庫率指数が0.04%減少、新設住宅着工床面積は0.24%減少し、消費者態度指数は0.47%減少、中小企業売上げ見通しも0.42%の減少を示した。一方、新規求人数は0.38上昇し、東証株価指数も0.24%の上昇を示した。一致指数では、投資材出荷指数が0.30%減少し、商業販売額(小売業)は0.21%減少、商業販売額(卸売業)は0.15%減少した。一方、耐久消費財出荷指数は0.41%上昇している。遅行指数では上昇が目立ち、法人税収入が1.18%上昇、完全失業率は0.25%改善、消費者物価指数は0.15%上昇、最終需要財在庫指数が0.17%の上昇を示した。総論として内閣府は、一致指数における7ヶ月後方移動平均が連続して上昇していることから、景況感は全体としては改善しているとしている。
図4は昨年11月までの訪日客数の推移である。日本政府観光局2022年12月21日付報道発表によると、10月より日本政府が個人旅行の受け入れや査証免除措置の再開等を実施したことで、コロナ前の2019年同月比で4割近くまで回復している。特に東アジア地域からの観光客数の大幅増が押し上げ要因となった。また、航空便は増便しているがコロナ前の水準とはなっておらず、政策の要に観光業を位置付けていることから、今後さらに客数が増加する余地は十分ある。
【4.今後の不動産購入について】
為替動向をみると、本年1月6日時点で133.64円(前年同日116.04円)と、引き続き円高傾向を示しているが、前年同日比では約13%の円安であり、従来よりも円安相場であるといえる。「安い円」を有効活用した経済成長や賃金上昇を目指す岸田政権にとしては、更なる円高を嫌う事は容易に想定できるが、今後増え続けるインバウンド需要、日銀の政策金利の行方次第では、今後、更なる円高傾向を示す可能性も否定できない。帝国データバンク社のTDB景気動向調査(全国)では、不動産業界の現況として「不動産価格は高値安定しており、取引も旺盛」という声と「建築費の高騰と土地の値上がりにより、お客様がついてこれてない状況になっている」といった後ろ向きの声が確認できる。先行きについては「分譲マンション建築ラッシュは1年後には落ち着くと予想」や「若者の投資人気が継続し、不動産に対しても不労所得の対象となると見込まれる」といった好況感や「2023年4月以降、金利上昇局面に入り、住宅ローン金利が上がる」ことへの懸念もあるようである。厚生労働省発表「毎月勤労統計調査(令和4年11月分速報)」によると、従業員5人以上の事業所における1人当たり実質賃金が、前年同月比で3.8%減少している。本稿【1】でも確認した政府の旗印政策である「人への投資」とは裏腹に、企業の賃上げが物価上昇に追い付かず、8ヶ月連続で実質賃金の前年同月比を下回る状況となっている。以上のことから、高値を付け続けてきた最近の不動産市場は、徐々に値崩れを起こしていく事は予測可能であるといえる。しかし、物件一つ一つの魅力を見極める事で、意外な条件の物件が良質なものとなり得る。そうした物件の価値は上がり続ける。その傾向もまた強まっていると言え、そうした物件への目利きのある信頼できる不動産会社の重要性が高まっている。